INTERVIEW 021 | SATIS

暗さに意識を向ける

設計:谷尻誠/サポーズデザインオフィス(自邸+レストラン+賃貸オフィス)

  • facebook
  • twitter
あたかも以前から長く存在していたようなコンクリートの表情

あたかも以前から長く存在していたようなコンクリートの表情

1F

コンクリートの表情と緑の状態が調和している

2F

古い街区の路地を歩くような、1Fの玄関へのアプローチ

今回は、建築家谷尻誠さんの自宅を取材しました。今まで150近い住宅をつくってきた谷尻さんですが、自邸では今までできなかったことを徹底してやってみようと思ったそうです。それは暗さと重さの表現へのチャレンジです。

暗さの中に暮らす

谷尻さんの原風景は町屋のような暗い家なのだそうです。明るさを求める建築が多い中で、逆に暗さを考え抜いてみたいと思ったのだそうです。たしかにこの家には窓はほとんどありません。高い塀で囲まれた中庭に大きな開口部があるだけで、部屋の奥に行けば行くほど暗さが増していきます。そして高い天井があることで暗さの中にも空間の量を感じることができるのです。
それは洞窟のような空間だとも表現していました。暗いなかにも存在するグラデーション、最後には真っ暗になって何も見えなくなるような、焦点が消えていくような空間です。しかし、だからこそ明るさに敏感になり、外の光のある中庭がより明るく見えるのです。

暗さを楽しむ

1F
2F
1F

B1F(クリックで拡大)

2F

1F(クリックで拡大)

ロフトF

ロフトF(クリックで拡大)

3F

2F(クリックで拡大)

RF

RF(クリックで拡大)

断面図

断面図(クリックで拡大)

重いものは重く

重いものをいかに軽く見せていくかを、多くの建築家がトライしてきました。そのために線を少なくしてシャープに、薄く、そしてギリギリのディテールを作るのが、多くの建築家の態度とも言えます。谷尻さん自身も以前はそうだったとのこと。しかし最近、そうした建築のあり方に疑問を持ちはじめたのだそうです。重いものは重く、軽いものは軽く。素材のもっている重さそのものを表現していきたいと考えるようになったそうです。

素材そのもの

さらに素材そのものの持ち味をそのまま表現していくことはできないのかとも言います。無理したディテールはいつか剥がれ落ちてくるのだと。素材そのものが時間を経ても古びないように、初めからそのもののありようを見せていきたいと。この家のコンクリートも板張りの型枠を使い、より荒々しく、素材感を増すように考えて作られています。線を消すのでなく、あえて増やして陰影を作っています。この、素材のままと素材の重さへの追求は、この住宅で特に意識されたチャレンジのようです。

コンクリートで作られたキッチンカウンター

1F
2F

すべてのものがアートとして置かれていた

不便は豊かである

こうした建築的なアプローチに加えて、彼自身の中にある、暮らしの原風景を求めるようになってきたのだと言います。かつて薪で風呂を炊き、寒さや暗さもあった暮らし。不便ではあるけれども、その暮らしを求めはじめている自分があることに気づいたそうです。子供の頃、魚釣りに明け暮れ、毎日自然の中でぼうっと考えていた頃のように、今はキャンプに行って自然の中で暮らすのがとても好きなのだそうです。不便は豊かであるということ、不便であることを楽しみたいと、そしてかつての子供の時のように、そこでぼうっと考え事をしているのが楽しくも豊かであるとも言っています。

キャンプ以上住宅未満

不便と言ってもキャンプ生活を毎日過ごすのは、無理があります。それにキャンプに行くと、設営と片付けに多くの時間を費やしてしまいます。できるだけ自然の中で暮らしたいと思うものの、設営の時間を減らすためにも、外で暮らせるような家をつくりたいと思ったそうです。この家はそうした考えへのトライアルですが、さらにその場に行けばすぐに自然を感じられる暮らしがしたいと、今、千葉の海の近くに別荘を計画中だそうです。
便利さを追求した住宅にならないように、そしてキャンプよりは少しだけ快適にしながらも、キャンプで味わう自然との近さを味わえるように、できるだけ外で暮らせる設計にしたいと言います。建築はそこでしかない体験に価値があるのだと考える谷尻さん、そのアプローチの一つが、外で暮らす体験なのかもしれません。

中庭に置かれたバスタブ、自然を感じる暮らし、外で暮らす

HITOTEMAという小さなレストラン

2階には奥さまが経営する自然食にこだわり抜いた小さなレストランがあります。カウンターだけの10人ぐらいが座れる小さなレストランです。贅沢ではないけれど日常の食事を極めていくといったコンセプトでこだわり、月替りのコース料理が楽しめるようです。お店へのアプローチは広いテラスから、ここでも内部と外部の関係に注目しています。大きな全面ガラスドアは、建物の中なのに外にいるような感覚になります。テラスの塀の上には、食べられる樹木やハーブが育てられていました。それらを食材としてつかうのでしょう。この取材の日も北海道から届いた昆布を、甘みを出すために太陽にあてていました。まさに店の名前通りの一手間をかけていくこと、そうした細やかな配慮があらゆるところに垣間見えていました。谷尻さんの建築へのコンセプト「不便は豊かだ」ということと、相通じるようにも思えました。

広いテラスからのアプローチ

太陽の下で甘みをます昆布や食材

レストランからテラスを眺める

手作りの梅酒

コロナのことで考えたこと

谷尻さんは、このコロナの影響で海外のホテル案件などはすべて止まったそうです。しかしそれはそれで新たなチャンスだと、こういう時代にどうやって生きていくのかを考えられるようになったのだと言います。どこにいても仕事ができる時代に、どんな暮らしを手にしていくのか。そしてどんな時代でも生き抜く力をつけていくこと、磨いていくこと、そこにこの自然の中で暮らすということはつながっているようです。好きなことをやるために、好きな建築をつくるために、事務所の体制をつくってきたのですが、事務所を維持するために仕事をしているのではないということ、ここにも原点回帰の思いが働いているようです。

自分のしたいことが少しクリアーになってきた

この家をつくることで、今までやってこなかったことにチャレンジしようと思ったのだそうです。暗さを追求すること、重さを追求すること、外にいるように暮らすこと、線を消して抽象化しないことなど、自宅だからできること、そして今まで説明してもなかなか理解してもらえなかったことをここで実現したそうです。今までとは違うアプローチに、谷尻さん自身も大きな転換点だと思っているようでした。

取材中の谷尻さん

このコラムの関連キーワード

公開日:2021年02月24日

  • facebook
  • twitter