LIXIL × Architects - 住宅編 Vol.01

トネリコ×SAMOS : M-HOUSE「アルミ樹脂複合サッシで大窓をつくる」

トネリコ(デザイン事務所)

サッシは選び方、納め方次第。
デザインが良ければ、既製品がベストなケースもある

敷地は南と東が道路に面した角地。南側に大開口を設けた一方で、東側は玄関アプローチ脇の小窓と、2階の外壁にぽっかりと開いた四角のみ。この内部はバルコニーになっている。 / 撮影:淺川 敏

以前、この土地には築50年の工場併用住宅が建っていましたが、子どもが独立し、店をたたんだこともあり、1人住まいに建て替えることに。高齢の住まい手の要望もあり、米谷さんは温熱環境や防犯性を重視した、1階と2階がゆるやかにつながるコンパクトな住まいを提案。断熱に配慮して開口部は南側に1点、大きな窓に集約させるという案で設計は進んでいきました。当初は、これまで通りスチールサッシを特注し、1枚の大窓をつくる想定でしたが、南側の壁は前面道路に近く、建築基準法上、網入りガラスにする必要があり、特注するとコストが嵩むことがわかりました。さらに、換気窓を組み込むことや、断熱性・気密性の重要度を考慮するなかで、既製品を使って組み合わせるという解法が見い出されました。

美術大学を卒業後、世界的なインテリアデザイナー・内田繁氏が主宰する「スタジオ80」で経験を重ねた米谷さん。商空間やプロダクトのデザインを数多く手がける中で、既製品を使うことは考えもしなかったと言います。独立して2002年に君塚賢さん、増子由美さんの3人でデザイン事務所・トネリコを結成し、住宅を手がけるようになってからも、家具や建具はできるだけ建築と一体化させて、とくに使わない時は存在を消したい――トイレの紙巻器まで自分でデザインしていた時期もありました。
今回のデザインに至った最大の決め手は、FIX窓と横すべり出し窓で外観が変わらない、窓の存在を忘れるほどのフレームの薄さ。施工を担当した会社が手がけたSAMOSの設置事例をいくつも見て、スッキリと納めることができることを確認し、また、室内側と外側でフレームの色が選べることも後押ししました。室内側は白いフレームにして壁に溶け込ませているのに対して、外側はマットな黒いフレームを選び、ライトグレーの外観を引き締めるアクセントにしています。
「製品は性能が保障されている。あとはデザインと納まり次第」と米谷さん。このM-HOUSEと同時期に設計を進めていた自邸も、細部に至るまでこだわって空間をデザインする一方で、キッチンやバスルームはデザインが気に入った既製品を採用しています。

連窓および吹き抜けの見上げ。上部に設けたロールスクリーンで陽射しをコントロールする。 / 撮影:淺川 敏
撮影:淺川 敏

米谷ひろし(写真左)

トネリコ代表/多摩美術大学環境デザイン学科准教授
1968年生まれ。武蔵野美術大学卒業。92?2002年スタジオ80在籍、内田繁氏に師事。02年TONERICO:INC.を君塚賢、増子由美(写真右)とともに設立。建築、インテリアから家具、プロダクトにいたるまで多岐にわたり活動する。ミラノサローネ2005にてデザインリポートアワード最優秀賞。JCDデザイン賞金賞、グッドデザイン賞など多数受賞。

「建物は使う人があってこそのもの。メンテナンスが多少大変でも、デザインが好きで使い続けてくれるクライアントもいれば、最終的に求めるのは使い勝手というクライアントもいます。そこに合ったものをオリジナルにデザインするという考え方が基本にありますが、最近はデザインが良いと思える既製品も増えていて、今回は性能や使い手のことを考慮すると、この製品による連窓がベストだと考えました。」

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公開日:2014年06月30日