トイレで環境を考える?!――藝大生がつくった上野トイレミュージアムオープン

『コンフォルト』2020 October No.175掲載

  • facebook
  • twitter

美術館や博物館が立ち並び、アートを訪ねて人々が集まる東京・上野公園に、エネルギッシュに表現された「上野トイレミュージアム」が出現する。
トイレであって、ミュージアム? 排泄と大自然や環境はどんな関係?
用を足しつつ、ちょっぴり考えてみよう。

取材・文/清水 潤
撮影/淺川 敏(特記をのぞく)

東京藝術大学建築科と工芸科がタッグを組んでつくったパンダ、ペンギン、ライオン、キリンのうんちタイル。動物の生態、排泄物の形やテクスチャーを調査し、タイルにデザイン。「LIXILものづくり工房」でサンプル制作を行い、製造した。

東京藝術大学 美術研究科建築専攻 中山英之研究室

左から、現在修士2年の真木友哉さん、伊藤健さん、谷口紅葉(くれは)さん、西條杏美(あんみ)さん。ほかに日下あすかさんがメンバー。東京都へのプレゼン、実施設計、コスト管理まで行い、クリエイティブな他学部生とコラボレーション。友人から友人へ声を掛け、つてのない科には教授に募集してもらった。科学的なリサーチを重ね、病院で人間の腸内環境と排泄物の色や形についてヒアリングし、上野動物園で動物の排泄の実態を調べた。他科の学生にも自らリサーチしてもらった。「皆さん自身で見つけたものが、表現に反映されると思いますから」と西條さん。「プロジェクトを進めながら道筋が見えてきた」と谷口さん。陶芸と協働した伊藤さんは「話し合いで、タイルの形がジャンプした瞬間がありました」。

外観パース

外観パース

平面図 1/150

藝大生の連携でトイレを改修

2020年9月、東京・上野公園の大噴水から旧東京音楽学校奏楽堂方面へ向かう「芸術の散歩道」に入るところに「上野トイレミュージアム」がオープンした。公園トイレが、アートに親しむ環境にふさわしくあるために都が改修したもので、設計・監理などに東京藝術大学が協力した。
スタートは2019年春。現地を踏みつつ、「排泄から健康を考えるミュージアムのようなトイレができたら面白くない?」という日比野克彦美術学部長からの一瞬のひらめきワードと一緒に、建築科の中山英之准教授に改修案件のバトンが手渡されたという。
5月には中山研究室の修士1年生5名による1年間のプロジェクトとして取り組みが始まった。「建築科だけでつくるのはまったく面白くないと思って。研究室の学生たちと相談したときに、藝大全体、美術も音楽も一緒に関わり、交流する機会にできたらいいねと話しました。あとは学生たちが主体になって進めました。私は、彼らが問題に突き当たりシュンとなったときに励まし、鼓舞したという感じですね」と中山さん。

中山英之 Hideyuki Nakayama(右)

1972年福岡県生まれ。98年東京藝術大学建築科卒業。2000年同大学院修士課程修了。伊東豊雄建築設計事務所勤務を経て、07年に中山英之建築設計事務所を設立。14年から東京藝術大学准教授。近作に「石の島の石」(2016)、「mitosaya薬草園蒸留所」(2018)など。受賞多数。ベルギーでのプロジェクトも進行中。

     

湯浅良介 Ryosuke Yuasa(左)

1982年東京生まれ。 2010年東京藝術大学大学院修了。10年から内藤廣建築設計事務所勤務。18年Office Yuasaを設立。19年から東京藝術大学教育研究助手。今回のプロジェクトでは実務面の指導に当たった。

東京藝術大学 大学院美術研究科建築専攻

中山英之研究室
東京都台東区上野公園12-8
http://arch.geidai.ac.jp
https://nakayamalabo.tumblr.com

テキスト共有でコミュニケーション

プロジェクトが目指すところは、排泄を生産行為と捉え、自然界の大きなサイクルの中にあることを意識すること、という中山さんのアドバイスをもとに、学生が明快なテキストをまとめ、33名の参加者の名を記して、トイレに掲げている。テーマは「排泄と環境」とされた。

私たち人間にとって「排泄」には、どうしても不浄なイメージがつきまといがちです。しかし、お隣の上野動物園では、飼育員たちが日々、動物の排泄物の色やカタチを観察することで健康状態を確認しています。飼育員たちにとって「排泄」という行為は、大切な情報の源です。
また、自然界における「排泄」は、消化器系を通じた体内の循環であるばかりでなく、次の食物連鎖に繋がる、生産的な行為でもあります。
自身の体の中にある小さな循環から、地球環境に関わる大きな循環へ。
入る前と出た後で、体の中だけでなく、意識の中に小さな変化が生まれることが、「上野トイレミュージアム」の目標です。
〉(前文省略)

今回は内部改修である。各トイレブースにパンダ・キリン・ペンギン・ライオン、モザイク壁画にゾウ・トリのモチーフを用いて表現する。美術学部は壁画・モザイク画(絵画科)、腰壁まわりのタイルデザイン(工芸科陶芸)、手摺りなど(工芸科鋳金ちゅうきん)、サインと正面壁画(デザイン科)を担当。音楽学部は誘導アナウンス(声楽科)、いわゆる音消し装置に入れる音の作曲・楽器演奏、これらの録音など、各専攻が行った。建築科の5人はアートを依頼する立場にあり、それぞれに作家性の高い活動を行っている学生たちの個性を尊重しつつ、まとめに行き詰まる場面があったという。真木友哉ともやさんは言う。「建築の僕らでは辿り着けない表現が生まれるように、専攻それぞれに走ってもらう中で、全体のバランスをとることが僕らの役割でした。でも、それがむずかしくて。再度コンセプトを練り上げ、テキストにしたのはそんなときでした」これを共有し、話し合いを深め、プロジェクトは進んでいった。

美術研究科デザイン専攻

美術研究科デザイン専攻

サイン計画と正面壁画、テキストのデザインを担当。左から山根由子(ゆうこ)さん、芹澤大輔さん、山越真衣さん。改修現場のトイレでサインを確認中。「絵画や陶芸、鋳金など、それぞれの作家性を活かす作品が多いので、私たちはその作品を際立たせるデザインを話し合いました」と山根さん。芹澤さんは「動物のアイコンを持ち込むことで、サインのアイデンティティは出せたと思う」。動物、ヒト、赤ちゃんに消化管を通したデザインに注目。「プロジェクトの全体会議に参加し、他の科の作品づくりの工程などをあらためて知ることができました」と山越さん。

美術研究科絵画専攻油画+壁画

美術研究科絵画専攻油画+壁画

ブース内絵画を担当。左から岡田佳祐さん(ペンギン)、筧 由佳里さん(キリン)、古谷葵さん(トリのモザイク画)。ほかに川端健太さん(ライオン)、俵圭亮さん、岩崎拓也さん(パンダ)、伊藤藍さん(ゾウのモザイク画)。動物の生活環境と、後ろ姿などを描いた。しっかりリサーチして、生態に詳しくなり、スケッチに上野動物園へ通った。岡田さんは調べた末に群れの動きを取り入れた。「うんちタイルがほぼ実物大。小型のアミメキリンもほぼ実物大で描きました」と筧さん。古谷さんのモザイク画は2mを超え「こんなに大きなサイズは初めて」。トリは身近なハトなど。

美術研究科工芸専攻鋳金+美術学部工芸科陶芸

美術研究科工芸専攻鋳金+美術学部工芸科陶芸

左から鋳金・井上佳与さん、伊藤日向子さん。手摺りなどを真鍮で鋳造。うんちタイルに合わせ、動物の獲物、食物がモチーフ。「ライオンの手摺りは食べ終わった骨のイメージ」と井上さん。「ペンギンはうねる波に魚のイメージ」と伊藤さん。手摺りの寸法位置は建築サイドが安全の手引きから設計。学内の鋳造設備で石膏型製作、鋳込み、4分割したパーツを溶接した。右の2人はうんちタイルをデザインした陶芸の大槻莉子さん、田中泉さん。ほかに保坂朱音さん。「排泄物は有機的なのに、タイルはパターン化が必要。融合させるのに苦労しました」と大槻さん。

音楽研究科+音楽学部

左から声楽・バリトンの酒井雄大さん、ソプラノの足立歌音(かのん)さん。2人がトイレの配置をアナウンス。「女声・男声でわかりやすくアナウンスするために、スピード、声のトーンを合わせるのが面白かった」と足立さん。中央の音楽文化学専攻 音楽音響創造・竹内朗(あきら)さんは録音担当。アルトサックスで動物の鳴き声も表現。作曲・澤田緋佳莉(ひかり)さんと土生木(はぶき)理紗さん、打楽器専攻の山﨑大輝さんは擬音制作。鳴き声がわからない動物が多く、動物園に行ったり、動画を観て研究。「多様な楽器で再現した背景音にも耳を澄ましてみてください」。

このコラムの関連キーワード

公開日:2021年06月23日

  • facebook
  • twitter