業のやきものの時間のなかで

日本六古窯・常滑でつくるSATIS

小栗康寛(とこなめ陶の森 学芸員)×神谷政武(LIXIL)×百瀬和巳(LIXIL)

『コンフォルト』2018 October No.164掲載

  • facebook
  • twitter

1000年前から続く6つの古窯、常滑・瀬戸・越前・丹波・信楽・備前。
なかでも常滑は芸のやきものだけでなく、時代や社会のニーズに応える業のやきものをつくってきました。そのスピリットはLIXILの衛生陶器づくりにも貫かれています。

愛知県常滑市山方町明治時代以降、それまで都市のインフラ整備を支えた土管、焼酎瓶、硫酸瓶などを再利用し、常滑のまちの風景がつくられた。愛知県常滑市山方町。 写真提供:梶原敏英 初出:『やきものを積んだ街かど』(LIXIL出版)

土管や建材をつくってきたまちの歴史

1000年前から時代のニーズをとらえ、使いやすいかたちを

「とこなめ陶の森」の資料館に入ると、ホールに直径が1メートル前後あるやきもののかめが20個以上ずらりと並んでいる。常滑を含む知多半島で出土、あるいは発見された甕を平安時代末期から江戸時代後期まで時代順に並べたものだと学芸員の小栗康寛さんが解説してくれた。まず、常滑の窯業が平安時代にまで遡ることに驚かされる。そこには理由があると小栗さんは言う。
「知多半島はやきものの材料となる良質の土があったこと、また窯を形成しやすい丘陵地であったこと。さらに海に囲まれ、船で物を運べるという3つの条件に恵まれていました」。中世の頃には知多半島全域に2000∼3000の窯が分布していたそうだ。「それが鎌倉時代中頃から海運に便利な伊勢湾沿岸部に密集し、常滑は甕、壷、鉢を専門につくる窯業地に変わったのです」。
甕は肩まで土中に埋めて酒の醸造、藍染めなどに使われ、さまざまな液体の貯蔵容器として各地で利用された。肩が膨らんだ形状は時代により異なるが、底部が小さくすぼんだ形は共通している。内容物を最後まですくい取りやすく、埋めるときに穴を掘りやすいためである。また成形した素地きじの水分をうまく乾燥させ、ひび割れを抑える意味もあるというから、さらに感心してしまう。
「時代のニーズをとらえ、使う側の視点に立ち、どのように使われるのかを強く意識してつくられてきたのが常滑焼の特徴です」と小栗さんがまとめてくれた。明治時代に入ると、そのスピリットによって人々は精度の高い土管を木型で量産する技術を開発し、常滑は土管の有力な産地となった。建築材料のタイルも生み出した。現在、LIXIL榎戸えのきど工場でつくられている衛生陶器にもその力が生かされている。

小栗康寛とこなめ陶の森 学芸員
小栗康寛
 Yasuhiro Oguri
1982年愛知県生まれ。愛知学院大学大学院文学研究科卒業(先史考古学)。2008年田原市教育委員会、12年常滑市教育委員会、14年∼とこなめ陶の森学芸員。

とこなめ陶の森/資料館で学ぶ

「とこなめ陶の森」は常滑・常石神社の鎮守の森に散策路を設け、その西側に立つ資料館、陶芸研究所、研修工房の3施設で構成されている。陶芸研究所(1961年)の設計は、堀口捨己。
資料館(1981年)には国の重要有形民俗文化財に指定されている常滑の陶器の生産用具(1655点)及び登窯(1基)のうち、300点が展示されている。

愛知県常滑市瀬木町4-203
開館 9:00∼17:00 休館 月曜
http://www.tokoname-tounomori.jp
tel 0569-34-5290

資料館で常設展示されている近代の製土用具、成形用具、焼成用具、陶器など。

資料館で常設展示されているのは近代の製土用具、成形用具、焼成用具、陶器など。精度の高い土管を量産するために開発した成形用の木型、焼酎瓶や硫酸瓶、またロケット戦闘機の濃縮燃料をつくるための大型の甕など、昔から常滑でつくられてきた業のやきものの、多様な用途がわかる。

今も昔と変わらない常滑の粘土。今も昔と変わらない常滑の粘土。
常滑産の江戸時代の甕。底部がすぼんだ形状が特徴。常滑産の江戸時代の甕。底部がすぼんだ形状が特徴。

レンガの煙突が並ぶ昭和の常滑

石炭窯の内部。石炭窯の内部。土管は数段積み上げて窯に詰め、焼成された。土管は明治10年代から平成まで製造された。 写真提供:とこなめ陶の森
常滑駅の近くにはやきもの工場が密集していた。常滑駅の近くにはやきもの工場が密集していた。レンガでつくられた煙突から黒煙が立ち昇る。 写真提供:とこなめ陶の森

榎戸工場の神谷政武まさむさんが案内してくれたのは洋風便器のボディを成形する伝統的な「石膏型鋳込み成形」のラインである。最近は製造工程の自動化が進み、「圧力鋳込み成形」や「ロボット自動仕上げ」のラインへ移行しつつあるが、天然の土や陶石などを原料とし、陶器を焼き上げる基本は昔も今も変わらない。
「型から抜いた素地のときから乾燥までの工程で、3パーセントほど収縮します。さらに焼成によって10パーセントほど、合計で約13パーセント収縮します」。乾燥には30時間以上かける。「急激に乾燥すると素地の内部が生乾きになり、割れてしまいますから」と神谷さん。衛生陶器は土と空気と火との微妙なバランスを維持しながら、つくられていることがわかる。

神谷政武LIXIL 榎戸工場
工場案内チームリーダー
神谷政武
 Masamu Kamiya
製造現場39年のキャリア。すべての工程を経験し、ベトナム工場の始動、新商品「SATIS NOBLE LABEL」の立ち上げにも参画した。

LIXIL榎戸工場(常滑)で衛生陶器の製造工程を見る

榎戸工場はLIXILの衛生陶器を製造する主力工場で、洋風便器、タンク、洗面器、手洗い器、小便器を製造。衛生陶器は1945年から常滑駅前の本社工場で製造されていたが、70年に榎戸工場に移った。工場の敷地面積85,000㎡、社員数は約400人。製造工程は原料の泥漿の製造から、鋳込み成形、乾燥、選別、施釉、焼成、検査など。

洋風便器の成形工程

生素地のできあがり。生素地のできあがり。まだやわらかい。
石膏型を用いた鋳込み成形のライン。石膏型を用いた鋳込み成形のライン。材料の泥漿でいしょうはカオリン粘土、陶石、珪砂けいしゃなどの素地原料を水と一緒に粉砕した泥状のもの。それが写真上のタンクに送り込まれている。それを左側に並ぶ石膏型にパイプで流し込み、石膏の吸水性を利用し泥漿を固形化させ約2時間後に脱型する。
石膏型から抜いたボディと便座が載る縁をマヨネーズ状の泥漿を塗って接着する。石膏型から抜いたボディと便座が載る縁をマヨネーズ状の泥漿を塗って接着する。
焼成工程。焼成工程。長さ100mの焼成炉のなかを、通常20時間かけて通過させ焼き上げる。焼成温度1220℃。焼成炉は24時間稼働している。 写真/梶原敏英

このコラムの関連キーワード

公開日:2019年05月29日

  • 1
  • 2
  • facebook
  • twitter