もっと自由に、快適に、清潔に──20年のSATIS Sタイプストーリー

『コンフォルト』2021 June No.179掲載

20年前、世界最小のタンクレストイレとして誕生しトイレ空間に革新をもたらしてきたINAXのSATIS。初代モデルで掲げた650㎜の奥行きを守りつつ進化を続け、今年は性能・デザインをより高めた新モデルが発売される。その絶え間ない挑戦を支えてきた思いとはなにか。

取材・文/秋川ゆか 人物撮影/白石ちえこ

20年間変わらないコンパクトさとフィロソフィー

「世界最小・最大満足」をキャッチコピーにしたタンクレストイレ〈サティス〉初代モデルがデビューしたのは2001年4月のことだ。従来のタンク一体型トイレに比べ、奥行き寸法を140ミリも短くした小さくシンプルなトイレのインパクトは大きかった。グッドデザイン金賞など数多くのデザイン賞を受賞し、発売後2年弱で販売10万台を突破したということからも、その受け止められぶりがわかる。もちろんデザイン性だけではない。使う人の身に立った多くの新機能も広く評価された。
ではINAXの技術者たちは、どんな経緯で〈サティス〉の開発に至ったのか。そこには、トイレ空間のイメージを変えたいという絶えることのない思いがあった。
INAXが日本初のシャワートイレを出したのは1967年のことだ。1964年にスイスで医療機器として販売されていたものを輸入し、販売を始めたのをきっかけに1967年に国産化した。お尻を洗おうという文化は徐々に浸透していく。住居の中で、暗く狭く非衛生的な場と感じられていたトイレのあり方が変わっていった。そして80年代、INAXはトイレをリビングやキッチンと同等の第三空間と位置づけ、デザイン重視を打ち出す。海外メーカーの美品なども紹介し、日本のトイレをもっと明るく開放的で美しい、日の当たる場にしようと提案していったのだ。〈サティス〉誕生への取り組みは、そうした流れのなかの必然であった。
シンプルで美しいデザインという部分は譲れない条件だ。それに加えて、タンクをなくすことが可能になればより小さくできる。日本の一般的な住宅ではトイレ空間は0.4〜0.5坪程度だ。そこを快適な場にしていくには小さいことが価値になる。そうして計算されたサイズが、当時の主流だった790ミリの奥行きを大きく下回る650ミリ。使う人間がゆったりと動きやすく、手洗い場や収納の配置もデザインでき、トイレ内のインテリアを豊かに楽しめるであろう寸法だ。それはトイレ空間を革新するものになる。
命題を受けた開発担当者たちの苦労は大変なものだった。そもそもシャワートイレ内部にはきわめて繊細な機構がぎっしりと詰まっていた。単にトイレ本体を小さくすればいいというものではなく、すべての機構を小型化し、狭くなったスペースに納めなくてはいけない。700ミリ超が限界と訴えた時期もあったという。
しかし、彼らはとうとうやってのけた。
デザイン、本体の陶器製造、電装などかかわるすべての人々の努力によって生まれた〈サティス〉は、「トイレを応接間に」という新たなコンセプトを生んだ。ひろびろと快適なトイレは、来客にもくつろいで身だしなみなど整えてもらえる場になった。閉鎖空間を脱してリビングや寝室などに据える提案も大きな反響を呼んだ。
以来、〈サティス〉は立ち止まることなく、常に進化を続けてきた。2004年にはデザインにシャープさを増し、2009年からのモデルはより機能を高めながら側面の見え方もシンプルになった。2013年にはセンサー部などをすっきりとさせ、2016年モデルでは高さも抑えている。そうしたモデルチェンジのたび、初代からの奥行き650ミリを守りながらも、さらに新たな性能が盛り込まれてきたのは言うまでもない。
そして2021年6月、新しい〈サティスSタイプ〉が発表される。その背後には、日本のトイレをどう変えていけるか、INAXが真摯に考えてきた長い物語がある。これからも続くであろう挑戦の物語、その最新の成果に注目したい。

空間としての魅力を追求する

ここまできた2021年のSATIS Sタイプ

陶器部やサイドカバーなど、さらに直線的なデザインになり、これまで以上にさまざまな空間に似合う。豊富なカラーとあいまって、インテリアの自由度も大きく増している。MWL色は20周年記念のマットホワイト(限定発売)。便座の座面幅は広げ、座り心地もアップしている。

大きくなった座面形状

大きくなった座面形状

カラーバリエーション

カラーバリエーション

リモコンもコンパクトにわかりやすく

お尻・ビデ洗浄水温や便座温度の調整など使用頻度の低い設定はリモコンを分離して、便フタ後方のトップカバー内に収納。壁リモコンはトイレ使用時に使う機能だけに絞ったことで、空間の美しさになじむ薄くシンプルなデザインに。アルミフレームで巻き、文字表記を英語にしたスタイリッシュなスマートリモコンも選べる。各ボタンの絵は2018年にJIS登録された「トイレ操作系ピクトグラム」。誰にもわかりやすいユニバーサルなデザインだ。

壁リモコンは約20%薄く、シンプルに

壁リモコンは約20%薄く、シンプルに

空間を引き立てるスマートリモコン

空間を引き立てるスマートリモコン

設定リモコンはトップカバー内部に収納可能

設定リモコンはトップカバー内部に収納可能

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公開日:2021年06月14日