まちの空間を活かす 3

地元と連携して人々を惹きつける
──池袋駅東口グリーン大通り

地域が繋がる「IKEBUKURO LIVING LOOP」

──実際、どのようにして居心地の良い通りにしていったのでしょうか。

青木氏:

毎月第三土曜日に「nest marche」というマーケットをやってきました。“nest” ”というネーミングにはまちに暮らす人やこのまちに地縁のある人が集う“巣”のような居心地の良い場所になってほしいという思いが込められています。なるべく地元の飲食店やアクセサリーなどのクラフト店、手作りで温もりあるもの、作り手である個人が見えるもの、そういう出店者を集めて。地域の人と一緒にマーケットを通して、単に素通りする場所でなく、まちなかで対話が生まれる場所づくりをして、日常に変化をもたらす仕掛けをしました。
それとは別に、年に一度、「IKEBUKURO LIVING LOOP」という大きな取り組みをやっています。1年目は2日間、2年目以降は3日間、コロナ禍の昨年(2020年)は10月と11月に分けて7日間開催しました。コロナ禍では、大きなイベントや毎月のマーケットも開けていないという状況で、実行するのは簡単ではありませんでした。しかも気候がいい時期でないと屋外スペースは人が佇みにくい。時期を見計らって実行しようとしたらコロナウイルス感染拡大の第二波が来てしまった。やるかやらないかギリギリのところでしたが、なんとか無事に開催することができました。簡単に”0”に戻す中止の決断はしたくなかった。コロナ禍の状況は直ぐ終息しないし長期間続く。ちょうど“ニューノーマル”や“新しい日常”と言われ出し、1日、2日間だと単なるイベントになってしまう。“0”にするのではなく、7日間やることで地域の一つの風景や新しい取り組み方が発見できるのではないかと考えました。
これまで「IKEBUKURO LIVING LOOP」はnestが単独で豊島区とご一緒してやってきましたが、2020年は地元のサンシャインシティ、良品計画、南池袋公園のレストランを経営しているグリップセカンドとnestの4社で共同受託しました。いずれも本社が池袋駅東口界隈にあるので、まちの当事者です。当事者である企業が連携し合って、それぞれの強みを活かしつつやった結果、すごく大きな発見というか、成果がありました。株式会社池袋ショッピングパーク、株式会社パルコ、池袋西武本店など商業施設やJR東日本、東京メトロといったインフラ、グリーン大通りに支店のある金融機関など、池袋の企業の皆さんも協力して広告物などを自費で出してくださった。僕らがつくったポスターも各企業自らどんどん貼ってくださって、東京メトロの駅構内にも目立つ場所に沢山掲示してもらいました。池袋西武本店にはいたっては、懸垂幕を制作したうえに1カ月間掲げてくださいました。豊島区とやっているので、予算が出ていると思われるかもしれませんが、実は違います。オール池袋で協賛金を出していただいき、同じ方向で「新しい日常を育もう」というメッセージを発信した。それがとても大きなことだと思いますし、他の都市ではないことだと感じています。

2016年にリニューアルオープンした南池袋公園 2020年秋に開催されたIKEBUKURO LIVING LOOPのようす。手作りアクセサリーや雑貨、移動式本屋などグリーン大通りと南池袋公園に地元を中心としたさまざまなお店が並んだ

──当事者である地元が一緒になって取り組むことが大事だと。

青木氏:

「IKEBUKURO LIVING LOOP」をやって気づいたことは、単純に物を売っただけでは人は来ない。公園と一体的に、公園と同じ空間とした時、やはりファニチャーが大事になってきます。日本人は欧米人と違って恥ずかしがり屋なので、ベンチでも置き方一つでレイアウトを失敗すると誰も座らない。そういったことも毎月のマーケットで実験しながら、豊島区と協働していく中でやり方が成熟してきた。
nestは4人しかいない組織なので、地元の人たちに協力し合ってもらわないと僕らだけでは賄いきれません。池袋は東急ハンズやサンシャインシティといった商業施設があるので、個人も大事だけどずっとまちの機能を担ってきた企業の皆さんにもその場所に居てほしかった。だから、アポなしで東急ハンズの店舗に入っていって、レジでいきなりプレゼンをして担当の方に繋いでもらい、協賛に至ったなんてこともあります。

ハンモック専門ショップ「hammock style」ハンモック専門ショップ「hammock style」では、屋外リビングには欠かせないハンモックの体験も

本来、行政は皆さんに対して平等にしなくてはいけない。公益性も大事なので、行政が窓口になると、なかなか大胆に攻めていくのが難しいと思います。だから、民間である僕らとパートナーシップを結ぶことで、僕らの視点で池袋の皆さんと直接コミュニケーションを取って、関わっていただけたことが大きかったのではないでしょうか。そうやって少しずつ出店者が増えて、ファニチャーの置き方も良くなって「IKEBUKURO LIVING LOOP」も雰囲気ができてきて、本当に毎年やっていく度に変わっていくんですよ。やはり積み重ねですね。
賑わいというのは魔法ではないので、お金を掛ければ人が集まる訳でもないし、ましてやコロナ禍で人を集めることがいいのかという思いもあります。来てくださった方が笑顔であること、まちに愛着を持ってくださることが、豊島区にとってはとても大切で、実際、お子さん連れが増えたというデータも出ています。ちょっと前に豊島区の人口が40年ぶりに29万人を超えました。0歳~14歳の年少人口が一番増えています。子育て世代に選ばれるまちに変わった。待機児童問題、空き家対策、防災などいろいろな取り組みの先に結果が出ているので、グリーン大通りの取り組みだけが人口増加に貢献した訳ではありませんが、その一端にはなったのではと思っています。「IKEBUKURO LIVING LOOP」も毎年売上が伸びています。そういう場所だと認知され始めたということですよね。単に冷やかしではなく、ちゃんと価値を認めてくださり、楽しみに来てくださる。2019年までは1店舗当たり1日の売上高が約37,000円だったのが、2020年は約51,000円に上がりました。料金設定によってもだいぶ変わりますが、中には約25万円を売り上げた店舗もあります。コロナ禍で飲食が大変な中、出店した飲食店が結構、売り上げてくださった。飲食店だけで見たら、出店ゾーンによっては平均の売上高が9万円になったところも。公園都市・池袋の南池袋公園から通ずるグリーン大通り界隈のイメージや取り組みなど、これまでつくられてきた日常にファンがついてきている結果だと思います。

2016年にリニューアルオープンした南池袋公園 IKEBUKURO LIVING LOOPでは飲食店の人気が高い。キッチンカーに人々が並ぶ場面もあちらこちらで見られた

イベントをするにはお金が掛かりますが、大掛かりな仕掛けをしなくても普段から「IKEBUKURO LIVING LOOP」のような日常を目指すという感じですね。今回の取り組み自体は、協賛金を頂いたりして、ほとんどお金をかけていません。豊島区も財源を大切にしているので、調査も含めて予算をミニマムに抑えてやっていますが、今後は脱イベントということが大事な気がしています。ハード整備があれだけ進んだので、あの延長線上にもっと日常的な新しい風景ができればいいと思っています。僕自身は全国で公共空間活用や地域再生に関わらせていただいていますが、あくまで他所のまちでは、豊島区での実践を通じて得られた経験値を活かしてサポートする立場です。それぞれのまちに当事者がいますから。池袋にこれだけの力を割くのはやはり自分たちが当事者だからです。そのまちの当事者が動くことが凄く大切になってきます。

増子氏:

nestをはじめとした地域の皆さんは、マルシェやオープンカフェのやり方についても、毎年いろいろと工夫されて、どういった形がよりいいのかと常に考えてくださっています。ブラッシュアップしながら、今後はグリーン大通りだけでなく、さらに周辺に賑わいを広げていけるようにしていきたいですね。2021年度は、7日間開催した「IKEBUKURO LIVING LOOP」とはまた違った形で、まち全体に人が流れて、さらに歩いて気持ち良く、居心地の良い空間に思ってもらえように、皆さんと一緒にチャレンジしていければと考えています。また、次回も楽しみにしています。

グリーン大通りに設置された平なデッキ グリーン大通りに設置された平なデッキはイベント時には舞台となる。観賞用にベンチを仮設して、即席のコンサート会場に

心地良い佇まいが賑わいを生む

IKEBUKURO LIVING LOOP 植栽帯を整備して歩道に奥行きを持たせたことで、人々が佇めるスペースに。IKEBUKURO LIVING LOOPでは、仮設のパラソルヒーターとベンチ、テーブルを用意。訪れた人たちが座ってくつろいだり、テイクアウトした食事をゆっくり味わえた

──環境づくりが人々を惹きつけるのでしょうか。

青木氏:

整備された後は、佇まいというか環境が良くなって、人が座りやすくなった。工区2期の場所は駅から一番遠いので、イベントをやると人が流れづらくて売り上げが一番低いところだったのですが、整備後は売り上げが一番高いエリアになった。植栽帯が一律に並んでいたのをゾーンによっては植栽帯を取っ払って、そこにベンチやテーブルなどのファニチャーを置きやすいようにしました。植栽帯もこれまでは、単なる防護で生け垣が広くてゴミが溜まって大変でしたが、今は南池袋公園と同じような綺麗な植栽帯が並んでいるのでゴミも減り、公園のような設えになって見た目も素敵になりました。気持ちいい空間に生まれ変わったと実感しています。今、コロナ禍で密を避けたいということがあると思います。奥行きが広いとそこに人が行きやすく、居たいという心理も働く。せっかく工区2期の整備をやったので、僕らもいい出店者に並んでもらい、このゾーンの価値を上げようとやってみたら、見事にはまりました。凄く売り上げる場所に変わった。それって、再整備してよかったと言われる結果に繋がる。そういうことが大事だと思います。グリーン大通りの取り組みは、いろいろな変化を起こせるんだと気づかせてくれた。やっていて本当に面白いです。

増子氏:

高野区長も常々言っていますが、まちが発展すれば皆さんが豊島区を選んで、ここに住んでくれて、税収も上がる。実際、29万人を超える都市になり、選ばれているという状況になりつつあります。これまでは、公園の整備やIKEBUS(池袋を周遊する電気バス)などもそうですが、いろいろなハードの整備を進めてまいりました。それも高野区長が「100年に一度の大改革の年だ」ということで旗を振って、全区民に投げかけて理解を得ながらやってきています。「ハード整備が終われば、それぞれのところに、ただ施設を整備しただけでなく魂を入れる。これを連携させて有機的に繋げて賑わいを創出していくんだ」と。まさにそういう取り組みの一つが、青木さんがおっしゃっているようなグリーン大通りを中心としたまちづくりに繋がってきていると思います。グリーン大通りの取り組みは一過性のものではないので、これからも、賑わいがあり、居心地が良く、歩きたくなるまちなかの形成を目指し、ウォーカブルなまちづくりをさらに広げていけるよう一緒に取り組んでいきたいと思っています。

これからも一緒に取り組んでいきたいと話す増子氏と(左)と青木氏(右)(写真:フォンテルノ)これからも一緒に取り組んでいきたいと話す増子氏と(左)と青木氏(右)(写真:フォンテルノ)

青木純(あおき・じゅん)

株式会社nest代表取締役。1975年東京都生まれ。カスタマイズ・DIY可能な賃貸文化を創造し経産省「平成26年度先進的なリフォーム事業者表彰」受賞。「青豆ハウス」で2014グッドデザイン賞受賞。主宰する「大家の学校」で愛ある大家の育成にも取り組む。生まれ育った豊島区では都電家守舎の代表として遊休不動産の転貸事業や飲食事業「都電テーブル」を展開。「グリーン大通り」「南池袋公園」など公共空間活用も民間主導の公民連携で実践する。全国展開する民間主体のまちづくり事業として注目を集めるリノベーションスクールには2013年から参画。 株式会社まめくらし 代表取締役。株式会社都電家守舎 代表取締役。

「nest.inc」http://www.ikebukuropark.com/

「都電テーブル」https://todentable.thebase.in/

「まめくらし」https://mamekurashi.com/

取材・文/フォンテルノ 撮影/シヲバラタク

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公開日:2021年03月24日