パブリック・フロントランナーズ 6

パブリック・スペースとしての商店街の役割

彌田徹(建築家、403architecture [dajiba])

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私は浜松で設計活動をはじめた当初から、事務所にほど近いゆりの木通り商店街に関わっている。商店街そのものに興味があったわけではない。大学院時代に携わった研究室活動で、街の“使い方”が変わることで建築や街が変わる過程を体感し、自分が住む街でも実践したいと漠然と考えていたからだ。そんななか、知り合いの紹介で関わるようになったゆりの木通り商店街は、今では都市にとって必要な公共的な役割を持ち合わせた場だと感じている。

ゆりの木通り商店街は、JR浜松駅から北に徒歩10分の場所に位置する東西約600mの商店街で、浜松市が指定する都市再生緊急整備地域の北限にあたる。旧東海道に面していることから、市民としても“街なか(=中心市街地)”という意識がある地域だ。生鮮食品を扱う店舗はわずか1店舗で、飲食店が全体の15%に対して物販店が45%という商店街の店舗構成に加え、全国展開のチェーンストアは2軒のみで、その多くが個人店であることも特徴である。

ゆりの木商店街を西に望む

ゆりの木商店街を西に望む

商店街がもつ公共性

一般的な商店街を大別すると、最寄り品を中心とした日常生活の基盤となる商店街と、買回り品を中心とした商店街に分けることができる。ゆりの木通り商店街は、後者にあたる。日常生活の基盤ではない商店街が持つ公共的な役割とはなんだろうか。

それに気付かせてくれたのは、商店街に3つある商店会のうちの1人の会長の言葉であった。

店の外から見るだけでは全然面白くなかったけど、店に入り、店主の話を聞くと、それぞれのこだわりや考えのもと、商品を扱っていることが分かった。豊富な商品知識やつくり手とのネットワークがあり、買い物をするときには、商品の特徴やつくり方、ときにはなぜそれをつくったかを教えてくれる。そういう経験から彼らは伝え手として、ものづくりを支えているということに気付いた。だから、この商店街がなくなるとものをつくるつくり手や技術がなくなることに直結するのだと思う。

この指摘は、金物工法などの普及によって仕口や継ぎ手を刻む技術の衰退が、近年ますます危ぶまれている建築業界とも通じ、小さな商店街が浜松という地域の枠組みを越えた大きな役割(の一部)を担っていることを捉えている。

また、この話を別の視点から解釈すると、各個店は単なる消費の場ではなく、店主の暮らしや生き方の一部が表われた場とみることができる。例えば、リビングのような場所で髪を切りたいと約20坪に2席しか設けていない美容室や、午前に家業を手伝い午後から営業するアパレル店、昔からある店は文字通り店舗と家が一体になっており、入店すると裏からひょいと出てくる。そのかたちはさまざまだが、みんな暮らすことと働くことが渾然一体となっている。こうした暮らしが集まる場として、商店街は都市における多様性を担保する重要な役割を果たしている。

客席を2席とした美容室 ©kentahasegawa)

客席を2席とした美容室 ©kentahasegawa

家業と両立しながら営むアパレルショップ ©kentahasegawa)

家業と両立しながら営むアパレルショップ ©kentahasegawa

商店街は、公共機関が管理するような“すべて”の人のためにあるパブリック・スペースではないが、「役割」という観点から見れば、私的領域の集まりである商店街も公共性を伴ったパブリック・スペースだと言える。

商店街の御用聞き

そんなものづくりと暮らしの多様性を支えるゆりの木通り商店街に関わるようになって約9年になる。しかし、今でも商店街のなかで明確な役割を担っているわけではない。自分の興味から始めたこともあって、いきなり商店街を扇動する立場でもないし、3商店会で構成された商店街には複雑な事情がある。そこで、大局的にマネジメントすることはあえて避け、各事業や相談をその都度受けている。御用聞きのようなものだろうか。御用次第で行き当たりばったりではあるが、振り返ってみると御用の内容は、2011〜2014年、2014〜2018年、2019年以降という具合に大きく3つのフェーズに分けられる。

まず最初の4年間は、イベント・ワークショップ・調査といった事業の依頼を多く受けた。この時期は、2009年に中心市街地に計画されていた百貨店の出店取り止めの影響から、営業をやめる店が続出した名残が空きテナントや空きスペースというかたちで商店街に残っていた。そういった場所を短期間利用しながら、さまざまな人に商店街の面白さを伝える試みを行なっていた。

ミニ包丁をつくるワークショップ。立体駐車場が会場になっている

ミニ包丁をつくるワークショップ。立体駐車場が会場になっている

パブリック・スペースを広げる2つのビル

そうした下地のおかげか、次の4年間は空きテナントへの入居のサポートや空きスペースの更新、新たな運営に力を割いた。入居のサポートでは、物販店の誘致や入居時に使うことができる助成金の紹介と申請、既存店舗と繋がる機会をつくっている。そうした動きのなかで、特徴的だったのはKAGIYAビルと万年橋パークビルの2つの建物だ。

KAGIYAビルは、戦災復興の政策として全国的に広まった共同建築の一部を取得した地元不動産会社が、その内部を細かく区画し、若い人やとがったセレクトをしたい人が借りやすいようにしている。ただ貸すだけではなく、キーテナントを誘致し自社でも出店をしながら、入居するテナントにも多少の審査を行なうことで、結果的に多彩な出店と刺激を商店街にもたらしていた。

KAGIYAビル。4フロアに15テナントが入居する ©kentahasegawa)

KAGIYAビル。4フロアに15テナントが入居する ©kentahasegawa

一方、万年橋パークビルは、テナントスペースと住居、立体駐車場からなる複合用途の建物で、その空きテナントや駐車場の低利用な部分の活用を行なっている。私に気付きを与えることとなった先の商店会の会長が、このビルの社長ということもあり、駐車場の一部をイベントなどで使えるように開放したり、「セミナールーム 黒板とキッチン」(構想・運営=株式会社大と小とレフ)というコミュニティースペースのような場を設けた。さらに2017年には街に空きテナントが少なくなってきたと、駐車場の7階の一部を、ブースを組み合わせることで、自分のお店が持つことができる実験的なスペースとして貸し出す試みを始めている。

「セミナールーム 黒板とキッチン」でスペース内のキッチンを利用し、夕食会を開いている。

「セミナールーム 黒板とキッチン」でスペース内のキッチンを利用し、夕食会を開いている

7階駐車場に設けられた実験的スペース。1辺2.3mのユニットが組み合わせの基本となっている ©suzukiyoichiro

7階駐車場に設けられた実験的スペース。1辺2.3mのユニットが組み合わせの基本となっている ©suzukiyoichiro

これらの2つは主体が異なることから当然方針も違う。私自身もサポートのほか、KAGIYAビルでは、403architecture [dajiba]としていくつかテナントの改修に携わり、万年橋パークビルでは、私個人で企画や運営に携わることとなった。前者では好きなことを生業にする店主が増えていく過程に、後者では消費すること以外で商店街に訪れることができる場をつくる機会に立ち会っている。それぞれ方針は違えど、ゆりの木通り商店街全体でみると、商店街の良さを深めたり、広げるような試みで、活動の当初に考えていた“使い方”によって、空間や街が僅かながらも変わっていく様子を目の当たりにすることができた。

KAGIYAビルに入居した若手陶芸作家を中心に扱った器屋 ©kentahasegawa)

KAGIYAビルに入居した若手陶芸作家を中心に扱った器屋 ©kentahasegawa

パブリック・スペースの次世代への紡ぎ方

そして現在、商店街は新たなフェーズに差し掛かっている。9年という歳月はけっして短くない。活動を始めた当初、お世話になった年配の店主が店を閉めたり、ながらくイベントやワークショップを行なうときに借りていた空き店舗が取り壊され、駐車場や高層マンションなどの計画があると聞く。所有が分かれる各敷地については、それぞれに託すしかない。この変化のあとで担う新たな役割もあるだろう。しかし、時代の流れに身を任せるだけでよいのだろうか。個々の“使い方”から得られたつくり手を支え、働きながら暮らすことができる場としての公共性を保ちながら、変化していくことも可能なのではないか。それは、ボトムアップでパブリック・スペースをつくり、世代を超えて継承することの可能性に挑む大きな挑戦でもある。変化の最中にある商店街というパブリック・スペースの次世代への紡ぎ方を通して、じっくり考えていきたい。

彌田徹(やだ・とおる)

1985年大分県生まれ。浜松市在住。建築家。横浜国立大学建設学科卒、筑波大学大学院人間科学研究科建築デザインコース修了。2011年に辻琢磨、橋本健史とともに、403architecture [dajiba]を設立。静岡県浜松市を拠点として活動している。主な作品=《富塚の天井》《東貝塚の納屋》《万年橋の角》ほか。受賞歴として2014年第30回吉岡賞、2016年ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展日本館にて審査員特別表彰。

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公開日:2019年12月25日

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