対談 5

パブリック・トイレから考える都市の未来 ──
オフィス、サービス、そして福祉的視点から

浅子佳英(建築家、進行)× 吉里裕也(SPEAC,inc.)× 中村治之(LIXIL)

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会場の様子

ITによるオフィスの未来型

浅子

話は戻るのですが、「WeWork」や「Uber」のなにが革命的なのかというと、これまではITはIT、物理空間は物理空間と切れていたのが、物理空間をITのように使っている点です。この流れは今後ますます進んでいくでしょう。そのように現実の物理空間においてほとんどのことがIT的に解決できるようになったときに、なにが残るのでしょうか。

吉里

どこでも仕事ができるようになっており、僕の場合、半分くらいはSkypeを使って会議をしています。建築の設計においては現場に行くことが必須なのですが、それすらもスマホなどで現場の状況を撮影し実況してもらいながら、ある程度はできてしまう。じゃあ僕が会社に行くのはどんなときかと考えてみると、ブレインストーミングに関しては、実際に会議室の中で顔を合わせてやったほうがテンションも上がっていいアイデアが出るので、そこはたぶん残るだろうという予感はします。

また、最近はオフィスの中にキッチンを付けるケースが増えていて、当然といえば当然ですが「食べる」「一服する」という部分も残るでしょう。そうしたウェブ上でできることと集まってできることの違いは、オフィスがいる/いらないという話になったときにより明確になっていくでしょうし、業種によって違ってくる気がします。

浅子

僕もメールの返信など、パソコン上でできてしまう仕事がほとんどで、顔を合わせる必要があるのはミーティングや打ち合わせだけですね。とくに模型を使ったスタディだけはひとつの部屋にみんなで集まらないとどうしようもないのですが、それ以外は自宅にいてもオフィスにいても変わらない。原稿やスケッチはカフェでしたほうが電話もかかってこないし来客もないので集中できるくらいです。それでも、SOHOやテレワークは思ったより進んでいないですよね。

吉里

初対面の人にメールで済ますのは失礼だから会いにいくというように、まだまだ慣習や形式とらわれている部分も大きいのではないでしょうか。また、「みんなが出社しているんだから出社しなさい」というような考え方は、組織が大きくなればなるほど強い気がします。しかし、規模が大きいから一律に従うという考え方は、いまの若い人たちにはなかなか通用しなくなっている。だからこそ、「WeWork」のようなものが今後入ってくる土壌があるのだと思っています。

浅子

結局、通勤ラッシュが依然としてなくならないのも、物理的な問題以上にそういう慣習的な部分が大きいのかもしれないですね。建物を増やしたりITで解決するには限界があって、働き方に関わる社会常識というところまで変えていかないと本当の解決にはならないのではないか。もっと言うと、ミーティングで顔を合わせるにしても、オフィスである必要はないですよね。会議だけだったら喫茶店やファミレスでもいいわけですから。こういう状況が進んでいくと、飲食店側もいままで以上に打ち合わせのための場所をサービスとして提供していくようになるかもしれません。

吉里

僕は在宅で仕事をしていた期間が長くて、打ち合わせに喫茶店を使っていたのですが、そのたびに1日に何度もコーヒーを飲むことになり、嫌になってしまったんです。ですから、ようやく自分のオフィスを借りたときは楽になりましたね。オフィスはワークスペースというより会議をするために借りたと言ってもいいくらいです。結局、喫茶店を使うにしても、予約したり早めに行かなければならなかったりと、無駄な時間や手間がかかっていました。だからオフィスを持つことで効率化がすごく進んだんです。そうはいっても、忙しいときにはすぐに会議室が埋まる一方で、それ以外のときは遊んでいることも多い。そこに目をつけた「Airbnb」のオフィス版というか、空いている会議室を貸し出すサービスなどもありますよね。

浅子

たしかに大きな会社だと会議室用のフロアがありますね。あらかじめ予約を取って使ってはいますが、遊んでいる部屋はかなりあるはずです。

吉里

それも予約が簡単にできるようになればいいだけという気がします。大きなオフィスの場合、社内で会議室の予約をするにもそれなりに手間がかかりますが、オフィス全体で「Uber」と同じようなシステムを導入すれば手間がかなり省けるはずです。考え方としては「Airbnb」や「Uber」と同じで、要は使われていないスペースがもったいないから有効利用しようということです。オフィスも間違いなくそうなっていくはずです。

浅子

いまの話を聞くと、「Uber」の次がある気がしてきます。「Uber」が物理空間をウェブサービスとして提供するものなのだとすると、それとはまったく逆の方向に進化、いわば、システムを変えることで物理空間のあり方を劇的に変えることもできるのではないか。たとえば会議室が余っているときに、そこだけセキュリティを切り離して開放し、パブリックな場所になっていけばずいぶんとオフィスの風景は変わりますよね。

吉里

今朝ちょうど、不在時に鍵を開けて家の中まで荷物を届けてくれる、Amazonの新しい宅配システムがアメリカで始まったというニュースをやっていました。それは解錠・施錠するスマートロックと配達員を監視するカメラさえあれば技術的にはできるので、仕組みとしてはシンプルです。

浅子

そういうかたちでオフィスのシェアも急速に進む可能性はありますね。一方で、すべてが効率化のもとに無駄がなくなっていくのは便利である反面、それだけだと面白くないので、さらにその先も考えたいですね。

吉里

合理化されて余裕ができた部分をどう使うのか。そのときパブリックの概念そのものが問われるのだと言えます。新しく公園や図書館をつくったとしても、既存の公共施設とのあいだで競争が起こり、同じような問題が再び生じかねません。ですから、僕は新しくハードをつくるよりも、既存の施設のソフトや運営の質を上げていくほうがいいと考えています。たとえば図書館であれば、新しく建てるよりも蔵書を充実させたり司書などの人材に投資したほうが、つまりハードやスペースではなくソフトや人に投資したほうがいいのではないでしょうか。

浅子

ITによる合理化でできた余剰を人に再投資するということですね。よくITの話をすると、「人間はどうなるの?」「結局大事なのは人だ」という話になりがちで、結論だけ見ると同じですが、ITを突き詰めた先に残るものという部分が大事なんでしょうね。

吉里

僕はその現象を「スナック化」と呼んでいます。たとえば、新宿のゴールデン街には200軒くらいの飲み屋がありますが、値段も受けられるサービスも大差はないわけです。それでもそれぞれのお店が回していけるのは、お客さんはそれぞれのママなりマスターなりに会いに行っているという側面が強いからではないでしょうか。そのように「スナック化」できる商売は残るだろうと。逆に言うと、いままで機械的にできていたものをあえて属人化することで付加価値を上げることもできるかもしれない。たとえば無人の自動駐車場がどんどん増えていったとして、その隣に管理人のおっちゃんがいるような昔ながらの駐車場があって、そこで毎朝あいさつを交わすようなことがあれば、100円高くても利用したいという人は増えるかもしれない。インドなどでは公衆トイレやお店の中のトイレで紙を渡すおばちゃんがいたりするじゃないですか。そういう合理化への反動は、好むと好まざるとにかかわらず今後起こってくるような気がします。

浅子

なるほど、たしかにそういう側面はありますよね。ただ納得できないところもあって、駐車場のおっちゃんにしても公衆トイレのおばちゃんにしても、本当にそれをやりたくてやっているのか、そこが問題だと思うんです。パブリック・トイレについて考えるときにどうしても避けられないこととして清掃の問題があります。商業施設のトイレがきれいに保たれているのは、単純にものすごくマメに清掃をしているからです。下手をすると1時間に1回くらいの頻度でやっている。商業施設よりは清潔度がはるかに落ちる公衆トイレですら、1日に数回くらいの頻度で清掃を入れています。われわれはそうした清掃やメンテナンスの作業を誰かに押し付けているわけで、もうすこし違った方法で解決できれば、また状況も変わってくるかもしれない。ともかく、「自分で使ったトイレは自分できれいにする」ということをみんなが率先してやりたくなるようなうまい仕掛けをつくれないかと、「パブリック・トイレのゆくえ」の企画を始めてからずっと考えています。

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公開日:2017年12月27日

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