社会と住まいを考える(国内)19

Toward a Non-architecture

佐々木慧(建築家、axonometric)

  • facebook
  • twitter

福岡を拠点にする

自身の建築プロジェクトに絡め「社会・住まい」について考察してみたいこともあるが、今回は、福岡を拠点とする僕、および僕が代表を務める組織「axonometric」を取り巻く状況を、設計活動だけでなく、組織、経営、日々の仕事や生活のあり方も含めて、できるだけ総体的に眺めてみることにした。そうすることでしか、僕の建築への姿勢自体も説明することができない。ちょうどパンデミックが起きる直前に福岡へ移住して独立し、さまざまな建築プロジェクトに関わりながら手探りで活動しているが、その全体像と実践こそが「これからの社会、これからの住まい」に対する僕の本音であり、社会の一断面であるはずだ。建築論にしてしまうと往々にして生々しいトライ・アンド・エラーの部分が整えられて漂白されてしまうが、もっと一見無関係に見える具体的なディテールとそれらの集積、全体にこそ、思考や作家性の本質が表れるように思う。

axonometricが入居している福岡のシェアスペースSuzaki-Koen Studio ©Suzaki-Koen Studio

そもそもなぜ福岡なのか。僕は、2010年まで九州大学に通っていたので4年間は福岡に住んでいたものの、大学院から東京に移り住み、前職も東京拠点の設計事務所だった。なので、福岡にゆかりがないわけではないが、とくに思い入れや仕事があって移り住んだわけではない。おもな理由としては、子どもを妻の実家がある福岡で育てたかったからだ。福岡に移り住むことについて、当時友人からは「なんで?」とか「おわったね」とか散々言われ、うんざりして福岡で独立することの勝算について考えたことを覚えている。独立したのは2019年なので、パンデミックの直前の頃である。

まず、前職で東京にいながら国内外世界中のさまざまな場所でのプロジェクトに関わっていたため、そこでの経験上、もはや事務所の場所はどこにあっても、技術的に建築設計は難なくできるという実感があった。また東京は家賃にも生活にもコストがかかりすぎる。場所に縛られなければ、その分プロジェクトに資金をつぎ込むことができる。海外のクライアントから見ると東京拠点も福岡拠点も大差ないだろうし、むしろ福岡だとアジアにはより近い。 また、最近はよく言われるようになったが、仕事・生活の拠点としての福岡のポテンシャルは高い。経費もかからず、自然が豊かで人の密度も適度、子育てにもストレスが少ない。欲しいものや情報はWebで手に入るし発信もできる。何よりごはんが美味しい。

ということで、とくに「福岡・九州に根ざした建築をつくっていきたい」というモチベーションはなく、「福岡を拠点にしても十分戦えるかな」という感覚だった。
そのような考えで独立し、ほどなくパンデミックが起こり、むしろ東京から拠点を移してよかったと実感した。さらにWeb上でのコミュニケーションの技術およびそれに対する社会のリテラシーが飛躍的に上昇し、当初思っていたよりも福岡からさまざまな場所と繋がって仕事をしやすくなった。事務所メンバーも、協力会社も、クライアントも本当に場所を選ばなくなった。

体制、日々の仕事

昨年、2021年に事務所を法人化し、axonometric株式会社を設立した。axonometricとしてプロジェクトに関わっているメンバーの半分は外部パートナーだ。関東や関西など他県に自身の事務所を持ちながらaxonometricにも参加してもらっていたり、他県で工務店の社長をしながら働いてくれたりしている人もいる。リモートの体制を整えることで、誰もが細切れの時間を提供しやすくなったことが大きいと思う。打ち合わせや模型、サンプルが必要なので福岡・天神にアトリエはあるものの、僕も含めてほぼリモートで日々仕事をしている。

デザインや大きな判断はまだまだ僕がほぼ主導せざるを得ないが、将来的にはもっとフラットにそれぞれが引っ張っていけるようにしたいと思っている。僕よりも経験値のある建築家の方々にチームに加わってもらいフォローしてもらったり、仕事の規模や忙しさに応じて融通したり、よりフレキシブルな組織の形が徐々に組み立てられてきた。もちろんまだ試行錯誤の段階で、思うようにいかないことばかりだが、地方を拠点にしてリソースを確保しながら、クオリティを担保するために、日々必死にトライ・アンド・エラーを繰り返している状況だ。

代表の僕に今2歳と0歳の子どもがいて、僕の妻も働いているので、人的リソースの確保や仕事の進め方が本当に切実な問題だというのも大きい。最新のツール、仕事の進め方は日々研究・模索している。実際僕はほとんどアトリエには行かず、比較的フレキシブルにプロジェクトを進める環境ができてきた。

©axonometric

さまざまな拠点と協業するプロジェクト

独立してちょうど3年がたった。半数は福岡周辺での仕事が占めるものの、そのほかは県外や海外のプロジェクトに携わっている。敷地は福岡であっても、事業主は県外や海外という場合も多い。パンデミック後にそのような事業の進め方(対面せずにリモートでコミュニケーションをとって進めるなど)がやりやすくなったのと、そもそも福岡で新しいことをやろうという事業主が増えてきたのだと思う。こうした背景をもとに、具体的なプロジェクトは以下のように進めている。

「NOT A HOTEL FUKUOKA(仮称)」では東京や福岡の企業をクライアントとして、新しいかたちの生活を実現するためのホテルを福岡で計画している。

©axonometric

中国拠点の企業と協働して未来のプレファブ建築の研究・開発をしている案件では、ほぼ施主と会うことなく、製作工場の現場もリモートで確認している。
海外のチームと協働して参加したイスタンブール市が主催したタクシム広場の国際コンペでは、最終審査まで残った。構造やランドスケープの外部パートナーも東京拠点だったので、チーム全体で一度も会うことなくプレゼンまで作成した。

©axonometric

また、一点物の学習机をデザインから製作まで依頼されたプロジェクトでは、日本で製作すると到底予算内に金額が収まらなかったため、海外の工場に発注して製作することでなんとか実現することができた。

©YASHIRO PHOTO OFFICE

このように積極的に多様なプロジェクトに参加しているが、そもそもどこの誰とでもやろうと思えばスムーズに協働できるので、地方に拠点があることがプロジェクトの進行上デメリットと感じることは今のところとくにない。

地方に根ざしたプロジェクト

もちろん、福岡や九州に根ざしたプロジェクトもある。axonometricのプロジェクトはほとんどが民間企業相手の案件だが、とくに地場の企業においては「コロナ以後の時代、どういうかたちで地方において集客をするのか、経済を回すのか」という切実な課題があり、axonometricとしても建築、都市空間にできることを模索している。

例えば下関・長府の複合施設では、街並みを形成している土塀に着目し、長府の歴史や街並みに根ざした、場所の魅力を最大限に活かした文化・コミュニティの拠点を計画している。ウェブ上での体験、コミュニケーションが加速度的に充実した世の中で、ここでしか味わいようのない体験・風景をどのようにつくることができるか、検討を進めている。ほかには、福岡で長年事業を営んでいる不動産会社や、デザイン・ブランディング会社と協働で、地方の建築ストックを活かすコンサルティング事業を立ち上げている。設計が始まる前の与件・企画の段階でクライアント側に付き、そこから総合的に都市、空間を計画するための仕組みをつくり始めている。包括的に事業に関わり、建築設計の上流から細部まで計画に関われるようにしていくことで、その地域・社会に根ざした新しい時代の建築は生まれると考えている。

©axonometric

これからの建築、社会、住まい

このように、とにかく手探りに新しい組織の形を模索しつつ、さまざまなプロジェクトを進めている。子どもを育てながら、福岡を拠点にしてどんな面白いことができるのか、四苦八苦、とにかく試行錯誤している状況だ。

そのなかで、僕が独立してから見出した重要な概念として「寛容さ」がある。複雑に絡み合った状況、関係性、理不尽さ、白黒はっきりしない雑然さ、加えて劇的に変化し続ける状況。これらを一旦受け止めて、余白を残しながら決断をしていく。axonometricの体制自体も寛容さをベースにしている。ゆるやかで柔軟で、付かず離れずの共同体のなかに新しい設計組織のあり方がないかと考えている。

これは建築や都市の設計でもまったく同じことで、この寛容さの概念の延長として、最近は“Non architecture”=「非建築」という言葉を使っている。枠組みの外側、さまざまな状況・分野・スケール・思想、それらの隙間にある関係性そのもののような建築のあり方、言い換えると「建築然としない建築」のあり方を模索している。より社会に開かれた、寛容で自由な建築、場所を計画していくことが、新しいこれからの社会、住まいにつながると考えている。

©axonometric

このように、さまざまな事象を一緒くたに関連付けながら、日々設計活動をしている。建築設計も、組織や経営も、社会も、日々の生活も、どれも分類して別々に考えずに、意識的に俯瞰して眺めてみる。そのための「寛容さ」であり、「非建築」的な思考である。

佐々木慧(ささけ・きい)

1987年長崎県生まれ。2010年九州大学芸術工学部卒業、2013年東京芸術大学大学院修了。藤本壮介建築設計事務所を経て独立後、福岡を拠点に2021年axonometric Co., Ltd. 設立。

このコラムの関連キーワード

公開日:2022年02月22日

  • facebook
  • twitter