「これからの社会、これからの住まい」1年をふりかえって

アフターコロナの住まいとパブリック・スペースのゆくえ──他者とともに生きること

浅子佳英(建築家、プリントアンドビルド)

改めて振り返ってみれば、どうしようもなくCOVID-19に振り回された1年間だった。

街や施設を見に行くツアー企画「パブリック・スペースを見に行く」も、泉山塁威さんと虎ノ門と池袋に1度行っただけ(「ストリート・公園・公開空地」2019年10月30日公開)で、2回目の田村圭介さんと一緒に渋谷を見て回る企画はツアー自体が中止となり、ZOOMでの対談となってしまった(「SHIBUYA──迷宮ターミナルの歴史といま、そして未来」2020年5月29日公開)。また、基本的に取材には行くことができず、直接面と向かって対談することも叶わず、1年間を通して、テーマを決めてリサーチしていくこのプロジェクトにとっては、かなり厳しい状況であった。

また今期は、コミッティとして須崎文代(神奈川大学)+中村健太郎(NPO法人モクチン企画)+谷繁玲央(東京大学大学院)を迎え、4人でテーマを出し合いながら進めていくことを検討していたのだが、結局ZOOMでの会議を行っただけで、一度も実際に会って打ち合わせすることなく終わってしまった。連動企画として4人でnoteの連載は始めたものの、もし、コロナ禍でなければ、互いの専門分野を持ち寄り連動した企画もできただろうと思うと心残りである。

ただ救いだったのは、これまでパブリックをテーマにしてきたリサーチを、昨年から住まいに大きく方向転換したことだ。現在、パブリック・スペースは非常に難しい状況にある。人々が集まることそのものが制限、もしくは非難される状況にあるからだ。山下正太郎氏へのインタビュー(「ポスト・コロナの住まいとワークスタイル」2021年2月24日公開)のなかにもあったように、ウィズ・コロナではともかく人との接触をなくすことが最も重要であり、基本的にそれさえ守っていればよい。この状況では、人が集まる場所であるパブリック・スペースをポジティブに考えることは難しかったように思う。そして、テーマを住まいにしたのも非常によかった。テレワークは一般的になり、この1年間はさまざまな住まいのなかに仕事が持ち込まれたはずだ。それは今後の住まいのかたちを否応なく変容させていくだろう。

とはいっても、2021年3月現在、東京は非常事態宣言下にあるが、飲食店の20時以降の営業が制限されているほかは、かなりコロナ前の状況に戻りつつある。朝のラッシュはかつてほどではないものの復活しているし、休日ともなれば街は人で賑わっている。

より厳しく人々の行動を制限していくべきか、それとも経済を回すためにソフトランディングさせていくべきか。SNS上では完全に真逆の意見を持った人々が、今なお専門家も巻き込みながら議論を続けている。ここではその是非については問わない。ただ、思い出してほしい。2020年4〜5月の1回目の緊急事態宣言の後、朝のラッシュがなくなり、それまでずっと平日は会社にいた多くの父親たちが家にいることになったことを。あの数カ月は、変えることは不可能だと思っていたものが変わった瞬間だった。もちろん、妻側から見れば、逆に負担が増えただけで、会社にいてもらったほうがいいという意見はあるだろう。だからこそ、変える契機として忘れずにいたいと思う。そうすることで、妻に集中されてきた家事を家族で分担、協働する。さらには地域ぐるみで協働する。または一部を外部のサービスに委ねるなど、せめて今回の状況を活かし、これまで常識で変えられないと思っていたものを疑い、いま一度、根本的に変えるチャンスとして捉えるべきではないか。

例えば、法律家で弁護士の水野祐氏は、「タクティカル・アーバニズムとルールメイキング」(2021年2月24日公開)のなかで、法やルールを完璧で守らなければならないものとして捉えるのではなく、「ルールを破って育てる」ものとして捉え、アップデートし続けていくことの重要さを説いている。そして、誰もが少しだけルールは変えられるものだという意識を持つことさえできれば、「民・官という二項対立や「カウンター」としての対立構造ではなく、共感・共鳴による変化の誘導を促す」ことになると結論づける。そう考えると、今、住まいから考えることは、ぐるりと回って再びパブリックについて新しい視点と実践の契機をもたらしてくれるはずだ。

COVID-19以後の世界を想像してみよう。そこでは、パブリック・スペースのあり方は、否応なく変更を余儀なくされているだろう。そしてそれは、人は原理的に一人ひとり誰もが違う生を持った存在であり、その差異を認めたうえで、どうやって再び連帯、共同することができるのか、という問いに答えることこそが重要になるだろうと考えている。

浅子佳英(あさこ・よしひで)

1972年生まれ。建築家、デザイナー。2010年東浩紀とともにコンテクスチュアズ設立、2012年退社。作品=《gray》(2015)、「八戸市美術館」(2021)(共同設計=西澤徹夫)ほか。共著=『TOKYOインテリアツアー』(LIXIL出版、2016)、『B面がA面にかわるとき[増補版]』(鹿島出版会、2016)ほか。

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公開日:2021年03月29日