INTERVIEW 002 | SATIS

視線が暮らしを変えていく
── 内と外の家

設計:藤原徹平/フジワラテッペイアーキテクツラボ | 建主:幸和ハウジング株式会社さま

世代を受け継ぐ家のあり方

この数十年、高度成長の時代の家の作り方は核家族という多くの人の共有できる暮らしの理想像にあわせてきました。家族構成は両親と子供二人。母親がいつも家にいて、家族はリビングで仲良く団欒をするというようなイメージを共有していました。そして核家族であるがゆえに一世代で完結した家をつくってきたのです。しかし時代は大きく変わろうとしています。家族構成もどう変わるかわかりません。一人暮らしの人も増えています。高齢の両親の介護をするために両親と一緒に住むかもしれません。また一度は企業に勤めた人も、会社をやめて独立するようになるかもしれませんし、ご主人だけでなく、家族がそれぞれ家をつかって小さなビジネスをすることも起きそうです。また家を一世代で消費するような高度経済成長の時代は終わり、これからは100年以上長く使える家が主流になりつつあります。そうなると今の暮らし方だけでなくその時々の暮らし方の変化に対応できるような構造や空間のボリュームが必要になってきます。この家ではできるだけ多くの壁が「とったりつけたり」というように気軽に改変できるようになっています。仕上げもベニヤ合板でできているので穴を開けたり、ビスを打ったり気軽にしたくなるようにつくられています。

2階のリビングから中2階との間の隙間を見る

2階のリビングから中2階との間の隙間を見る、その奥は1階個室の上部、視覚的には遮られているが、緩やかにつながっていて、どこにいても家族の気配が感じられる。

隙間から1階の個室をみた様子

隙間から1階の個室をみた様子。

あとから建主が自分で変えやすいような素材を選んでいる

あとから建主が自分で変えやすいような素材を選んでいる

1階の中央に置かれた水まわり

1階の中央に置かれた水まわり、浴室は全体がグラスファイバーで覆われていて完全な防水処理が施されている。脱衣室の壁は後から壊すことも可能な構造。介護が必要な時、間取りの変更が簡単なように。

多世代が暮らすこと

少子化や高齢化は、家族の住み方を変えていきます。大人になった子供と親が同居ということもあるでしょうし、親族が一緒にすむというケースもあるかもしれません。また様々な家族構成の2世帯、3世帯、兄弟姉妹などがひとつの家にすむことも起きそうです。こうした暮らし方でおきるのは、血のつながっていない人が一緒に暮らすということがおきます。高齢の親の介護などをする場合もお互いの気配を感じられるような空間は大事ですが、すべてが見通せるような空間ではでは逃げ場がなくなります。ゆるやかに空間同士がつながりながらも、視覚的に遮られた場所をもつことも重要だと考えているのです。この家にはそういう様々な視線から隠れることのできる空間があります。さらに外との関係も重要です。外に開かれることで、外との関係が大家族が一緒に暮らすある種の息苦しさを解決してくれると言います。前述したように家の一部を積極的に使って、お店にしたり、教室を開いたり、工房にしたりと外部の人が入る空間を住居にもつことは、多世代または大家族で暮らす家族にとって健全な精神状態を保つことができるのです。

多層的な開き方

「開かれた家」という言葉は最近多くの建築家からよく聞きます。住むということは一つの家族で完結するわけでなく、多くの人が地域とのつながりが必要だとも感じ始めています。なにかあった時のために近くにいるひとがもっとお互いに支え合うような社会が必要だとも言われ始めています。そのことについて藤原さんは、外側から内側の様子が垣間見えたり、内側からも外の様子が見えてきたりという構造を作りたかったそうです。そして前述したように部屋と部屋もゆるやかにつながり、全体が幾つものレイヤーで開いていく構造を持たせたかったと言います。この家の玄関前の土間は家の外ではありますが、しかしちょっとした仕切りを設ければ、内部から続いた空間にもなります。また1階には外への出入り口がいくつもあります。このことを藤原さんは「玄関のたくさんある家」と表現しています。この家には昔のような縁側はありませんが、1階の開口部のあるところがすべて縁側のようになっているとも言えるのです。

個室の窓は開けるとそこは縁側のような場所になる

個室の窓は開けるとそこは縁側のような場所になる。

玄関前の土間、多目的に使われる。

玄関前の土間、多目的に使われる。

玄関前の大きな土間

玄関前の大きな土間は将来工房スペースやイベントスペースとして使われることを可能にする。左の部分は個室だが、かつての「店」のようにこの場所で家族でできる小さな商いが行わるようなことも想定している。

このコラムの関連キーワード

公開日:2017年11月30日