パブリック・トイレ×パブリック・キッチンを提案する 4

「食べる場所」から考える

板坂留五(建築家)

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食=食材+場所

来年の10月、消費税が8%から10%に上がるらしい。しかし、日常生活に必要な飲食料品(食品表示法に規定する食品[酒税法に規定する酒類を除く])と新聞は軽減税率制度が実施され、8%に据え置きされるという。ただし、外食は「飲食に用いる設備のある場所で顧客に飲食をさせるサービス」、ケータリングは「顧客が指定した場所で顧客に飲食させるサービス」として、適用対象外とされる。
例えば、スーパーで食品を購入する場合は8%の消費税が課せられるに対して、レストランで飲食をする場合は10%となる。さらに、昨今増えているコンビニで購入した食品は、イートインスペースで食べると10%、外の公園で食べると8%と、食べる場所によって課せられる消費税が違うようだ(参考資料:特集 消費税の軽減税率制度 | 政府広報オンライン)。

ということは、「食」とは「食材」と「場所」によってできていると言えそうだ。

食=食材+場所

以下、すべて筆者作成

例えば友人とランチに出かける時、「なにを食べる? どこで食べる?」というやりとりをするし、デートに誘う時、「おいしいものがあるんだよ」と言ったり、「いい雰囲気のお店があるんだよ」と言ったりする。
     

このように、食において食材と場所は、切り離せない関係であるということはすでに明らかだろう。どちらもそれぞれ価値があり、そのバランスによって食の喜びは得られる。

食と税率

まさにそのバランスが、食べる場所によって変わる消費税のシステムによって崩されてしまうのではないかという不安を抱いた。
     

「食材」は自給自足でもしない限り手に入れることができないため、日常生活に必要不可欠と判断される。
それに対し「場所」は、一見どこにでもあるように思われている。つまり、場所をわざわざ提供することは、食事にとって必要不可欠なことではないと判断されているようだ。

先ほど述べた、食においては切り離すことのできない「食材」と「場所」の関係が、場所によって変わる消費税のシステムによって切り離されている。

それと同時に、「場所」に対するこのような認識に、空間を扱う建築家のひとりとして違和感を抱いた。食における場所が、数字で測ることのできるたんなる面積として扱われ始めているのではないだろうか。
誰しもがもつ、どこでも食べられるにもかかわらず「ここ」で食べようと判断する感覚は、ごく自然で日常的なものである。その感覚が付加価値とされるならば、「食」の喜びは少し特別なことになってしまうのだろうか。

「場所」には、どこにでもあるという日常性と、捉え方によってはいかようにも付加価値が生まれるという特別性が同居しているからこそ、おもしろい。それと同時に、低減税率の対象か否かを問われた瞬間に、「特別なものだ」と疑わない存在になってしまうことも確かである。私は、境界線を引き切ってしまうことで、場所は日常性を取り戻せなくなるのではないかと不安を抱いている。
ここで一旦、視点をずらしてみようと思う。

区別される「買う場所」と「食べる場所」

駅一体型の商業施設や、郊外のショッピングモールが象徴的なように、生活に関わるさまざまなプログラムはひとつの空間に集約される傾向がある。それは便利で簡単だが、どんどん空間は閉じてゆき、新たな発見やつながりは生まれにくいのではないかと不安に思っている。

そんななか、消費税のシステムによって食材と場所が区別されることになりそうだ。
「買う場所」として、「○○スタンド」と名のつくような持ち帰り専門店がより増えていくような動きが見られるかもしれない。
それに対して新しく必要になる「食べる場所」はどうだろうか。いままでは、テイクアウトの商品を買った後の、場所の選択ひいてはゴミ捨てをはじめとしたマナーの問題は、買った個人に委ねられていた。ところが、「買う」場所と「食べる」場所が「分散」する傾向がより見られると、食べる場所がもつ問題点の対象が、徐々に店舗をはじめ街や景観といった少し広いスケールに広がり、パブリックな問題になってくると予測できる。
そこで、新しく生まれる「食べる場所」のあり方を、パブリックの力を借りて考えてみた。

まず、3つの方法に整理してみよう。

「食べる場所」をめぐる3つの方法

A 持ち帰る
買った食材を職場や自宅に持ち帰る方法。
     

B 見つける
買った店の近くにすでにある環境から、自ら適した場所を見つける方法。反対に店側が食べるのに適した環境を見つけて、その近くに出店する方法。
街のコンテクストの再構築にもつながり、まちづくり的側面もある。例えば、中目黒(東京都目黒区)周辺の目黒川沿いは川辺に座れる場所があり、テイクアウトの店が多く、こうした川沿いの風景はこの辺りの固有のイメージにつながっている。
     

C つくりだす
すでにある店の近くに、不特定多数の人が利用できる、飲食に適した場所を新たにつくりだす方法。
単独の店が管理することは場所の提供になりかねないので、自治体などで共同して管理することが考えられる。

この3つから今回は、[C つくりだす]をとある駅前商店街を敷地に想定して提案する。

持ち帰りの店舗が並ぶ商店街

持ち帰りの店舗が並ぶ商店街

都内の多くの駅前には、商店街があり、その周辺には小さな商店や事務所、住宅が点在している。今回敷地に選んだ駅前は、持ち帰りの店舗が比較的多く並んでおり、昼時にはパン屋やデリで食材を買い、店内のイートインスペースで食べている様子を多く見かける。

歩道・車道・食道

この商店街は、車道が2車線とその両側に歩道、そのまた両側に建物が並ぶ一般的な構成をとる。また、平日の小中学校の下校時間になると、商店街の両端に看板が置かれ、日常的に車道が歩行者専用道になるといった習慣がある。
ここから着想を得て、「食道」を思いついた。道路を「歩・車・食」の3色に塗り分けることで、「食べる場所」を道の上につくりだそうと考えた。
     

また、「食道」はインフラのようなものとして考えられる。災害時には、まず初めに電気や水道の復旧が急がれるように、インフラは日常に対して大きな影響力をもっている。「食道」が生まれることで、食材を楽しむように場所を楽しむことが日常的になるかもしれない。「場所」がたんなる面積ではなく、「日常」の一部でもあることを思いだすきっかけとなる。

「歩道・車道・食道」ダイアグラム

「歩道・車道・食道」ダイアグラム

具体的には、午前11時から午後2時のあいだ、以下の赤丸位置に柵を置き車両の通行を一部制限する。それによってできた路上を「食道」と名づけ、食べる場所として住民や働く人たちに開く計画である。
柵の配置を決めた理由は3点ある。

柵の設置ポイントと「歩道・車道・食道」の塗り分け

柵の設置ポイントと「歩道・車道・食道」の塗り分け

•商店街に直行する車道のうち、ここだけが一方通行だったこと。大雑把に車両を制限するよりも、柵の配置と元々あった車の流れの関係が可視化される。
•テイクアウトの店が集中しており、店舗にゴミを返却する手間を短くできる。
•範囲を小さくとることで人が集中し「食べてもいい」場所として認知してもらうことにつながる。また、管理する範囲が小さくなる。

多視点アクソメ(描かれたもの同士の関係を側面の開く向きによって表す図法)によるアニメーション「風景をほぐす食道」

多視点アクソメ(描かれたもの同士の関係を側面の開く向きによって表す図法)によるアニメーション「風景をほぐす食道」

「食道」が生まれたことで、人はもちろん、プランターや家具といったものの流れが変わる。細長い単調な商店街のなかに、新たな空間が生まれることで、今後の周辺の動きは変わってくるだろう。3つの柵を置くだけで流れを変える、とても手数の少ない試みだが、ひとりで道は変えられない。それが、パブリックのあり方に適していると考えた。

まだまだ消費税がどのように変わるのかは協議の真っ最中だが、心配ばかりせずに新しい食の喜びについて考えてみてもいいかもしれない。

パブリックはすぐそばにある

今回、パブリック・トイレとパブリック・キッチンについて考える機会をいただいたことで、私と「パブリック」の距離が近づいた。
以前までは、パブリックからは、真っ先に「みんなのため」というキーワードが浮かんでいた。しかし、それはどこか個人の身体と離れたところにあり、具体的に想像することが難しく、少し距離をとってしまっていた。
だが、今回トイレやキッチンというとても具体的なところから出発したことで、それぞれがもつ問題が違うことを改めて感じた。トイレの場合は、どうしても人に見られたくないという点から、空間的にも機能的にも閉じていく傾向がある。キッチンの(大きく「食」と捉えた)場合は、消費税の変化をきっかけに、食材と場所が分けて考えられるようになるだろう。
これらの切実な問題に対して、他のプログラムや建物の形式によってトイレを設計したり、食べる「場所」をインフラとしてつくりだしたりした。どちらも、ひとりの力ではできない、パブリックの力を借りることでできたデザインである。
具体的なものごとにていねいに向き合うことで、「パブリック」が個人のそばにあることに気づいた。個人とパブリックは上下や前後の関係ではなく、同じ地上にあり、互いに補い合っている。2つの提案を通して、それが確信に変わり、私自身とパブリックの距離が急に縮まった気がする。

板坂留五(いたさか・るい)

1993年生まれ。建築家。フリーランス。https://ruitoile.wixsite.com/home
主な作品=《A dimple of King’s cross》(2016)、《pick up “Kakera”, put on the house, pass to “Kamatarian”》(2016)、《omoshi》(2018)、《半麦ハット》(2018− )など。

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