パッシブデザインから学ぶ

お客様に喜ばれる省エネで快適な家づくり
~第1回 断熱と保温~

野池政宏(住まいと環境社代表、一般社団法人Forward to 1985 energy life 代表理事)

LIXILより
2021年4月より省エネ性能の説明義務化にあたり、住まい手へ住宅の省エネ性能をお伝えする機会が増えてきます。住宅の省エネ性能だけでなく、住まい手に快適性を伝えることで、他社とはまた違った提案をしませんか。今必要なことを、多くの住宅会社様とパッシブデザインに取り組まれている野池政宏氏より3回の連載コラムにてお伝えします。

野池 政宏

野池 政宏 - Noike Masahiro -

住まいと環境社代表
一般社団法人Forward to 1985 energy life 代表理事

「冬暖かく、夏涼しく、光熱費が安い住まい」を求める住宅取得者が大幅に増えています。このニーズに応えるためにはパッシブデザインと暖冷房計画に対する知識や理解が必要になります。パッシブデザインについてはこの10年ほどでプロの関心が大きく高まり、暖冷房計画については全館空調が注目を集めるなど流れとしては悪くないと思いますが、まだまだ断片的、表面的に捉えている会社が多いのが現状です。
そこでこのコラムでは、みなさんがまっすぐに「冬暖かく、夏涼しく、光熱費が安い住まい」の提供に向かう第一歩を踏むために必要な情報を提供しようと思います。

冬暖かい家をつくるための基本中の基本

熱がたまると温度は上がり、熱のたまり具合が少なくなると温度は下がります。この「熱と温度の関係」は物理現象としてごく基本的なものであり、誰もこれを否定することはできません。そして家づくりのプロとして、この関係をイメージすることが極めて重要です。冬に家の中の熱がたくさん外に逃げていけば、熱のたまり具合が少なくなって家の温度が下がり、住まい手は寒く感じるわけです。
もちろん、逃げていく熱より多くの熱を室内で発生させれば、基本的には温度は上がっていくのですが、熱がたくさん逃げていくような家は冷気がたくさん入ってくるので、思ったよりも暖かい家にはならないですし、暖房エネルギーや暖房費がとても大きくなってしまいます。
だから、冬暖かい家をつくろうと思えば、家の中から逃げていく熱をできるだけ少なくすることが超基本になります。そして熱が逃げていく経路としては「建物の外皮(床、外壁、天井、窓)を伝わって逃げる」と「暖かい空気が外に出ることに伴って逃げる」の2つがあり、外皮を伝わって逃げるほうを少なくする工夫が「断熱」、暖かい空気が逃げるほうを少なくする工夫が「気密」です【図表1】。

【図表1:断熱と気密】

【図表1:断熱と気密】

この2つの工夫をしっかり行えば、家全体で逃げる熱が少なくなって「高い温度がキープできる=保温性が高まる」ということになります。ものすごく当たり前なことを書いていますが、ここからスタートするしかないのです。なお、実際には暖かい空気が逃げることを少なくする方法として熱交換型換気設備を使うという方法もありますが、ここでは割愛します。

家の保温性を高めると、具体的には次のようなメリットが得られます。
①暖房の効きが良い(はやく暖まり、少ない熱で室温を維持できる)
②暖房を切ってからの室温低下が少ない
③暖房していない部屋の室温が高く維持できる
④室内に面した場所(とくに窓)の表面温度が高く保たれて不快感が少なくなる

こうしたメリットは本当に大きな意味があるのですが、みなさんにとっての大問題は「どこまで断熱性能や気密性能を上げるべきか?」という具体的な方針を決めることです。

目指したい断熱性能

まずは断熱性能のほうから述べていきましょう。結論から言うと、私が「最低限実現したい断熱性能」として提案したいのは「HEAT20のG1レベル」です(HEAT20について詳しくは http://www.heat20.jp/heat20towa.html)。これを建物全体の断熱性能の指標として使われているUA値で示したのが【図表2】です。

【図表2:最低限実現したい断熱性能】

【図表2:最低限実現したい断熱性能】

このUA値は「建物全体から逃げる熱量」というような意味を示す数値なので、これが小さいほど断熱性能が高いことになります。併せてこの表には省エネルギー基準で定められた基準値も入れておきました。HEAT20のG1レベルやG2レベルが実現する室温については【図表3】でご紹介しておきます。

【図表3:HEAT20のG1で実現することが予測される室温】

【図表3:HEAT20のG1で実現することが予測される室温】

[上記室温をシミュレーションで算出するときに用いられた暖房方式]

上記室温をシミュレーションで算出するときに用いられた暖房方式

加えて、私が最低限として提案したいG1レベルの家で実現するメリットを簡単に挙げておきます(わかりやすいので、先の4つのうちの2つを選んでいます)。

  • 暖房を切ってからの室温低下が少ない
    →LDKや寝室の睡眠時間中(暖房せずに約6時間)の室温低下はおよそ5℃以内になる
  • 暖房していない部屋の室温が高く維持できる
    →暖房している部屋(たとえばLDK)と暖房していない部屋(たとえば洗面室)との温度差が5℃~8℃程度になる【図表4】

【図表4:部屋間の温度差】

【図表4:部屋間の温度差】

[室温シミュレーション算出条件]●AE-Sim/Heatにより算出 ●自立循環型住宅ガイドライン一般地モデルプラン(2階建て/延べ床面積:120.07㎡) ●家族構成:4人家族 ●暖房:20℃ ●暖房運転:居室間歇運転 ●気象条件:拡張アメダス気象データの東京を使用 ●住宅断熱仕様:(断熱性の低い家)平成25年省エネルギー基準6地域適合レベル、(断熱性の高い家)2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会「HEAT20」G1基準6地域適合レベル ※掲載データはシミュレーションにより算出した値であり、保証値ではありません。住宅の仕様、生活スタイル、気象条件等により異なる場合があります。

ただし、あくまでここで私が提案したレベルは「私見」であって、オーソライズされた基準ではありません。HEAT20で示されているG1やG2といった断熱レベルも、参考にするひとつの情報であって基準ではありません。先にご紹介した、保温性能を上げたときのメリットについて「具体的にどこまで実現すべきか?」が定まっているわけではないのです。国が定める省エネルギー基準は「レベルが低すぎる家を少なくする」という位置づけであって、残念ながら「もっと高いレベルを実現すべき」と考える専門家や実務者にとっては参考にならない内容です。
もしG1レベルをみなさんの会社の標準(最低基準)にするのであれば、図表3を見せるなどして、その意味をお客様に説明できるようにしておいてください。ポイントはUA値ではなく、室温(体感温度)を示すことです。もちろん、「もっと暖かい家にしたい」とG2レベルを望むお客様も出てくる可能性は大いにあり、そのための準備(仕様、施工、価格の設定)をしておく必要があります。

目指したい気密性能

まず言えば、いまの一般的な家づくりを行えば、古い家のように「隙間風を感じて不快」というほど気密性が悪くなるようなことにはなりません。ただし、「体感的、省エネルギー的に十分か?」と考えれば、「まだあと一歩」と答えざるを得ないところです。
気密性能に関しては、気密測定を実施して得られる相当隙間面積(C値)がもっとも具体的な指標として参考になります【図表5】。細かいことを考えれば様々な条件によって数値は変わってきますが、ざっくりと「1地域~3地域:最低1.0 ㎠/㎡以下、4地域以南:最低2.0㎠/㎡以下」といった目標値を提案しておきます。
しかしそんな目標値を知る前に必要なのは「とにかく気密測定をしてみること」です。10年前に比べれば気密測定をする会社は増えてきましたが、まだ一度も実施したことがない会社も一定にあります。これは「冬暖かい家にする超基本をすっ飛ばしている」と言わざるを得ない姿勢です。もし気密測定の経験がないなら、すぐにでも手配して実施してください。C値がわかることも大切ですが、建物のどこに隙間があるか(気密性の弱点)がわかることが何より大切で、おもしろいのです。

【図表5:相当隙間面積(C値)】

【図表5:相当隙間面積(C値)】

※実住宅の数値は、気密測定によって確認することができます。記載の数値は床面積120㎡として計算

断熱性能と夏

夏に家が暑くなるのは、建物に当たった日射熱が家の中に入ってくることが最大の原因です。屋根や外壁に当たった日射熱はその部分を伝わって家の中に入ってくるので、しっかり断熱してあれば、そこから入ってくる熱は少なくなります。つまり、屋根(天井)や外壁の断熱性能を高めることは夏にも有効ということです。
もうひとつ、日射熱が入ってくる場所として窓があります。こちらは「伝わって入る熱」は少なく、窓ガラスを通過して入ってくる熱が圧倒的に多くなります。なので、「高い断熱性能の窓を使うことが夏対策にも有効」と単純には言えません。そして、いまの新築の一般的な屋根(天井)や外壁の断熱性能であれば、そこを伝わって入ってくる熱はかなり少なく、窓ガラスから入ってくる熱をどれだけ減らすかが「夏涼しい」を決めることになります(次回のテーマです)。
また「断熱性能(保温性能)が高い&昼間に窓から日射熱がたくさん入ってしまう&昼間に冷房しない(冷房が不十分)」のように条件が重なると、断熱性能の高さ、つまり保温性能の高さが逆効果になって、夕方以降に部屋の中にたまった熱がなかなか逃げてくれないという現象が起きます。少し前に「屋根(天井)や外壁の断熱性能を高めることは夏にも有効」と書きましたが、条件によっては断熱性能の高さがマイナスになることもわかっておいてください。もちろん、だからと言って十分な断熱性能を確保することをやめてしまうのは「冬暖かい」が得られないので不適切な判断です。こうしたマイナス面を避けるには、窓から入る日射熱を少なくする工夫や、うまく冷房することを心がけるのが正解です。

オリジナル工法やシステム

世の中には「冬暖かい」「夏涼しい」を目指すために開発された断熱工法やシステムがたくさんあります。理屈だけを聞いていると「なんだか良さそうだな」と思うものもありますが、大事なのは理屈ではなくて「実力値」であり、今回のテーマにおいてこの実力値として大事なのがUA値やC値です。オリジナルな工法やシステムに興味が沸いたら、こうした数値がどれくらいになっているかを供給メーカーなどに必ず聞くようにしましょう。
私もこうしたテーマで20年ほど仕事をしてきましたが、そこで得たひとつの結論が「こうした基本的な数値は裏切らない」です。

LIXILからのお役立ち情報

スーパーウォール

【図表5:相当隙間面積(C値)】

部屋間の温度差や上下の温度差が少ない、スーパーウォールの家の温熱環境は、建物全体を高性能断熱材で包み込んだ、気密性の高い、魔法瓶のような空間が生み出します。夏も冬も外気温に左右されにくい快適な室内環境を実現できる理由は、高い気密・断熱性にあるのです。

LIXIL スーパーウォール
https://www.lixil.co.jp/lineup/construction_method/sw/

対応に向けた準備はお済みですか?2021年、省エネ基準適否 説明義務化スタート!

2021年4月以降に設計を委託された住宅について、物件ごとに省エネ計算を実施し、省エネ基準への適否や対応策をお施主さまに説明することが、建築士の義務になります。新登場の「LIXIL省エネ住宅シミュレーション」は、お施主さまへの説明義務を果たすための説明資料や提案資料、認定・優遇制度の申請時に必要な計算書も、WEB上でのカンタン操作でパッと自動作成できます。
登録料・利用料は無料!ぜひご活用ください。

LIXIL省エネ住宅シミュレーション

https://www.biz-lixil.com/service/proptool/shoene/

このコラムの関連キーワード

公開日:2020年10月28日