パッシブデザインから学ぶ

お客様に喜ばれる省エネで快適な家づくり ~第2回 日射遮へいと通風~

野池政宏(住まいと環境社代表、一般社団法人Forward to 1985 energy life 代表理事)

LIXILより
第2回のコラムでは、夏の対策についてお伝えします。夏を涼しく快適な家にするために効果的な「日射遮へいと通風」、春・秋も快適に過ごすための「通風」についてご紹介します。住まい手に快適性を伝え、他社とは違う提案をしませんか。今必要なことを、多くの住宅会社様とパッシブデザインに取り組まれている野池政宏氏よりお伝えします。

夏の窓辺、暑くありませんか?

夏涼しい家をつくるための基本中の基本

夏に家の中が暑くなる原因は「建物に当たった日射熱が家の中に入ること」にあります。なので、この家の中に入ってくる熱を減らせば減らすほど涼しい住まいが実現することになります。非常にシンプルな話です。こうやって、夏に家の中に入ってくる日射熱をできるだけ少なくする工夫のことを「日射遮へい」と呼びます。
ちなみに、もしかしたら「夏に家の中が暑くなるのは、外の熱気(つまり外の空気の熱)が外壁や屋根や窓を伝わって家の中に入ってくるからだ」と考えている人がいるかもしれませんが、その影響は「建物に当たった日射熱が家の中に入ること」に比べて圧倒的に小さいのです。だから、後でも述べるように「躯体を高断熱にするだけ」では十分な日射遮へいはできないと考えるべきなのです。

方位別の日射量

実際の日射遮へいの工夫を考えるために、まずは方位別の日射量がどうなっているかを見てみることにしましょう。
【図表1】は方位係数と呼ばれる数値で、冷房期(冷房する期間)の方位別に当たる日射量の比率を示したものです(詳しくは、水平面に当たる日射量を1としたときの比率)。
これを見ればわかるように、夏に日射がよく当たる方位は次のような順位グループに分けることができそうです。これはつまり「家の中に入ってくる日射熱に対して注意を払うべき方位の優先順位」と言い換えることができます。

【図表1:冷房期の方位係数】

【図表1:冷房期の方位係数】

1位:水平面(勾配が緩い一般的な屋根面と考えてよい)

2位:東面、西面、南東面、南西面

3位:南面、北東面、北西面

4位:北面

屋根にトップライトを設けるときには日除け対策が不可欠であることが再確認できますし、屋根や天井の断熱が大事だということも理解できます。また「できる限り西面の窓は小さくする」という設計上の配慮をしている会社も多いと思いますが、「やっぱり正解だった」と思っていただいてよいわけです。

家の中に日射熱が入ってくるルート

さて次は「家の中に日射熱が入ってくるルート」について説明します。【図表2】を見てください。このように、このルートには「窓ガラスを透過して入ってくる日射熱」と「屋根(天井)や外壁を伝わって入ってくる日射熱」の2つがあります。なので、具体的な日射遮へいの方法は次のように整理できます。

【図表2:日射熱が入ってくるルート】

【図表2:日射熱が入ってくるルート】

①窓ガラスを透過して入ってくる日射熱の対策 → 日射熱が透過しにくい窓にする

②屋根(天井)や外壁を伝わって入ってくる日射熱の対策 → 断熱性を高める

ここで問題になるのは、①と②の量がどんなふうになっているかということです。たとえば、もし①の量が実際にはとても少ないのであれば、窓の工夫の重要性は低くなります。

そこで、前回に挙げた6地域での断熱性能の目標値を達成し、窓の日除けとしてレースカーテンを使っているような住宅を想定して計算をしてみた結果が【図表3】です。このように、窓から入ってくる日射熱はとても多いのです。なので、さらに屋根(天井)や外壁の断熱性能を上げるよりも、窓の日除け性能をさらに上げたほうが日射遮へい効果は大きくなることが予想できます。

【図表3:部位別に入ってくる日射熱】

【図表3:部位別に入ってくる日射熱】

※自立循環型住宅モデルを使用し、6地域で外皮計算を行った結果を示す(UA値=0.56、ηAC値=1.2)
※各部位の割合を四捨五入しているため、その合計は100%にならない

建物の日射遮へい性能を示すηAC値という数値

ここで少し話題を変えて、建物の日射遮へい性能を示す数値であるηAC値(イータエーシー値)について述べます。この数値は「冷房期での建物全体に入ってくる日射熱量を示したもの」と考えてよいものです。なので、「この数値が小さいほど日射遮へい性能が高い家」と考えることができます。つまり、夏涼しい家を提供したいと思うなら、まずはこの数値に注目すべきということです。

でも不思議なことに、UA値にはとてもこだわっているのに、ηAC値はほとんど無視している住宅会社がとても多いのが現状です。お客さんは「冬暖かいこと」と「夏涼しいこと」の両方を求めているはずです。なのにUA値ばかりに注目が集まっているのはとても変です。

【図表4】に省エネルギー基準における基準値(上限の数値)を挙げておきましたが、これをクリアしているからといって夏涼しい家が提供できていると考えてはいけません。UA値も同じですが、省エネルギー基準の基準値は「低いレベルの家をなくすこと」を目指して設けられたものだからです。

【図表4:省エネルギー基準におけるηAC値の基準値】

【図表4:省エネルギー基準におけるηAC値の基準値】

窓の日除け性能を上げて、ηAC値が小さく、夏涼しい家にしよう!

窓の話に戻ります。窓の日除け性能を示す数値として、これからぜひ注目してほしいのが「日射熱取得率」です。たとえば「日射熱取得率=0.4」である窓なら、この窓に当たった日射熱の40%が家の中に入ってくるということになります。

【図表5】は一般的に温暖地の新築で使われる窓について、日除け装置との組み合わせも含めた日射熱取得率を示したものです。これでわかるように、「外付けの日除け装置」が抜群の日射遮へい効果を持っています。少し極端な例ですが、すべての窓の日除け装置をレースカーテンから外付けの日除け装置に変更すれば、窓から入る日射熱は1/3になります。結果、建物全体で入ってくる日射熱は何と半分ほどに減るのです。

外皮計算の入力をするときに、窓の日除け装置を外付けブラインドに変えていってみてください。そうすると、どんどんηAC値が小さくなっていくことがわかります。そうした経験を積むことで、いかに窓の日除けが大事なのか、そしてどんな日除け装置が効果が大きいのかがわかってきます。

【図表5:一般的な窓と日除け装置の組み合わせによる日射熱取得率】

【図表5:一般的な窓と日除け装置の組み合わせによる日射熱取得率】

外皮計算はパッシブデザインの超基本

第1回目の内容も含めて、ここまでの私の話でわかっていただけると思いますが、パッシブデザインに真剣に取り組もうとするなら、外皮計算は絶対にやらないと(できないと)いけません。勘と経験では無理ですし、「これで合っていると思っていることに大きな勘違いがある人や会社」に私はこれまで多く会ってきました。もちろん外皮計算だけですべてが解決するわけではありません。でも、外皮計算を学ぶことがパッシブデザインの基本を知ることになりますし、その結果は非常に貴重な参考材料になることは間違いありません。

やっぱり風通しの良い家を求める人が多い

次のテーマは通風です。通風は「空気を入れ換える換気」と「夏涼しくする」という2つの目的がありますが、新型コロナの蔓延で窓開け換気が再注目されています。いずれにせよ、日本人の多くは「風通しの良い家は気持ちいい」と思っていて、せっかく家を建てるならそんな家にしたいと思っているはずです。

つまりお客さんのニーズは高いわけなのですが、プロ側として根拠のある通風設計ができているかというとそうではないように感じます。イメージ先行というか、窓を大きく取ればよいと単純に考えている住宅会社がほとんどだと思います。そこから脱却できる、一歩進んだ通風設計について解説します。

「風は気まぐれ」を基本に考える

たとえば、「10分後にこの土地のどこから、どれくらいの強さの風が吹いてくるか?」を予測することは最新の科学を持ってしてもほぼ不可能です。風向や風速についての気象データを探すことは可能ですが、それはたとえば「名古屋市のある場所に置いた風向風速計のデータ」であって、実際にみなさんが欲しいお客さんの土地のデータではありません。つまり「風は気まぐれ」であり、しかも個々の土地の風を予測することはとてもとても難しいわけです。

ということで、「この場所に窓を設けたら確実に風通しが良くなる」とか「この窓を大きくすれば確実に風通しが良くなる」ということは言えないのです。だったらどうすればよいのか?答えは明快です。「どこから風が吹いてきても風が通るようにすればよい」のです。

こうした設計上の工夫を私は「全方位通風」と呼んでいます。建物の(部屋の)4面すべての方向から吹いてくる風が通るようにすればよく、少なくとも通風のニーズが圧倒的に高いと思われるLDKについて全方位通風を実現させることをお勧めします。

このときに知っておいてほしいのがウィンドキャッチャーという技です。もっとも使いやすいウィンドキャッチャーは縦すべり出し窓であり、これをうまく活用すれば新たに窓を設けなくても全方位通風が実現しやすくなります【図表6】。

【図表6:ウィンドキャッチャーを利用した全方位通風の例】

【図表6:ウィンドキャッチャーを利用した全方位通風の例】
【図表6:ウィンドキャッチャーを利用した全方位通風の例】

高窓を設けて通風排熱させよう

暖かい空気は上に移動する性質があり、夕方以降に2階が暑くなる原因のひとつになっています。そこで、2階のできるだけ上の位置に窓を設けることで、その熱気を外に出すことが効果的です。そうした窓を高窓と呼びますが、横に長い高窓を設けることもひとつのポイントになります。

高窓を設ける場所としては2階(正確には最上階)のホールが適切です。2階のホールは2階のほとんどの部屋とつながっているだけではなく、階段を通じて1階ともつながっており、高窓に通じる部屋や窓を自由自在に設定でき、風の流れが確保しやすいからです【図表7】。

次回はいよいよパッシブデザインの本丸と言える冬の日射熱取得について解説します。

【図表7:2階ホールに設ける高窓で通風排熱させる】

【図表7:2階ホールに設ける高窓で通風排熱させる】
【図表7:2階ホールに設ける高窓で通風排熱させる】
野池 政宏

野池 政宏 - Noike Masahiro -

住まいと環境社代表
一般社団法人Forward to 1985 energy life 代表理事

執筆者より
「冬暖かく、夏涼しく、光熱費が安い住まい」を求める住宅取得者が大幅に増えています。このニーズに応えるためにはパッシブデザインと暖冷房計画に対する知識や理解が必要になります。パッシブデザインについてはこの10年ほどでプロの関心が大きく高まり、暖冷房計画については全館空調が注目を集めるなど流れとしては悪くないと思いますが、まだまだ断片的、表面的に捉えている会社が多いのが現状です。
そこでこのコラムでは、みなさんがまっすぐに「冬暖かく、夏涼しく、光熱費が安い住まい」の提供に向かう第一歩を踏むために必要な情報を提供しようと思います。

LIXILからのお役立ち情報

スタイルシェード

スタイルシェード

部屋の外側で日差しを遮り、部屋の温度上昇を抑えるスタイルシェードは、優れた省エネルギー効果も発揮します。窓の上のボックスからサッと引き下げるだけで、しっかり日差しをカット。使わないときはすっきり収納できます。よしずやすだれと違って、設置したり外したりする手間もありません。

LIXIL スタイルシェード
https://www.lixil.co.jp/lineup/window/styleshade/

外付けブラインドEB

外付けブラインドEB

家族や大切な人が集まり、ゆっくりとくつろぐリビング。住まいの中心ともいえるこの場所は、一年中心地よく、過ごしやすくあって欲しいものです。その願いを叶えるのが「外付ブラインドEB」。自由自在に動かせるスラットが、自然の力をコントロールして快適な住まいを実現します。

LIXIL スタイルシェード
https://www.lixil.co.jp/lineup/window/external_blind/

このコラムの関連キーワード

公開日:2020年12月23日