パッシブデザインから学ぶ

お客さまに喜ばれる省エネで快適な家づくり ~第3回 冬の日射熱取得~

野池政宏(住まいと環境社代表、一般社団法人Forward to 1985 energy life 代表理事)

LIXILより
第3回コラムでは、冬の日射熱取得についてお伝えします。冬に日当たりの良い家で暖かく感じることがありませんか?太陽の日射熱をうまく利用して賢く暮らす家づくりのポイントをご紹介します。今必要なことを、多くの住宅会社様とパッシブデザインに取り組まれている野池政宏氏よりお伝えします。

冬の日射熱取得

冬の快適・健康、省エネを実現するのは断熱だけではない!

連載1回目では「冬暖かい家をつくる基本中の基本は断熱にある」と述べました。これは間違いのないことなのですが、「では、断熱性能を高めるという発想だけで十分か?」と考えると「それは違う」というのが正解です。
断熱は「家の中にある熱をできるだけ外に逃がさないようにする」という技術です。でも、もしエアコンなどの暖房機器を使わずに家の中にたくさんの熱を取り入れることができれば、それは住まい手にとって大きなメリットになることは間違いありません。その賢い方法がまさに「冬の日射熱取得」という技術です。
近年断熱が非常に注目され、我が国の新築住宅の断熱性能は大きく向上しました。それはとても素晴らしいことです。しかし、高断熱だけで我が国の家づくりの進化が止まってしまうのはあまりに残念です。高断熱に日射熱取得の技術を加えることが、これからの住宅提供者のすべてが目指すべきものだと強く思います。これは私だけが考えているわけではなく、少し情報を探せば、多くの著名な研究者も冬の日射熱取得の意義を伝えようとしていることがわかります。

冬の日射熱量はとても大きい

高断熱で止まっている住宅提供者が日射熱取得に注目していない大きな理由のひとつが「冬の日射量(日射の熱量)がどれくらいなのかを知らない」というところにあると思います。たとえば、冬の晴れた日に南面に当たる日射量は地域に限らず1m²あたり約900Wにもなります【図表1】。電気ストーブが発生させる熱量は1000Wや1200W、様々な条件によりますがエアコンが安定的に動いているときに発生させている熱量はざっくり500Wくらいなので、日射量がいかに大きなものかがわかるはずです。つまり、うまく家の中に取り入れれば暖房機器を点けているのと同じくらいの熱が得られるわけです。しかも、エアコンのような温風を伴う熱ではないので高い快適性が得られます。また、暖房していない部屋に日射熱を取り込めば、暖房室と非暖房室の温度差も小さくできます。

【図表1:南面の壁に当たる冬の日射量の最大値】

【図表1:南面の壁に当たる冬の日射量の最大値】

実際に日射熱を取り入れる場所は窓です。たとえば、いま寒冷地以外の新築でよく採用されている「アルミ樹脂サッシ+Low-Eペアガラス(日射取得型)」や「樹脂サッシ+Low-Eペアガラス(日射取得型)」であれば、当たった日射熱の半分くらいは家の中に入ってくるので、3m²の窓を南面に設ければ、1350W(900W/m²×0.5×3m²)もの熱を取り入れられることになります【図表2】。ちなみに、900Wというのは最大値ですが、東京で南面に当たる日射量の平均値は約350W/m²です。こうして平均値で見ても日射量が十分に大きいことがわかります。実は、日本という国はドイツなどに比べて冬の日射量がとても大きく、その特長を生かした家づくりをすべき国なのです。ドイツなどでペアガラスより断熱性能が高く、日射熱取得性能が低いトリプルガラスが普及しているのは、冬の日射が少なくて気温が低いからです。こうした気象条件の違いを考えずに「ドイツの窓は性能が良くて日本の窓は遅れている」と考えてしまうのは早計だということに気づかされます。

【図表2:室内に入ってくる日射熱の例】

【図表2:室内に入ってくる日射熱の例】 ※3m²Low-Eペア(日射取得型)の場合

冬の日射熱取得を考える設計は難しくておもしろい

では次に、実際の冬の日射熱取得を積極的に行う設計(筆者はこの設計手法を「日射熱利用暖房」と呼んでいます)のポイントについて以下に述べます。なお、こうした設計を行うことで、外皮計算におけるηAH値の数値が大きくなり、冬の日射熱取得性能が高い住宅になることが確認できます。また残念ながら詳しい説明は省きますが、冬の日射量が少ない地域でも、以下のような設計を行うことは住まい手にメリットを与えるということもここで強調しておきたいと思います。

1)南面に窓を多く設けることを設計の基本ルールとする

冬の太陽は南にいる時間が長く、高度も低いので南面の日射量がとても大きくなります(夏の西面よりも大きい)【図表3】。
太陽の動きを分かり易く説明しているLIXILの動画(http://biz-lixil.com/tv/play.php?id=5721998049001)も紹介しておきます。【図表4】。
有効にこの日射熱を取り込むために、できるだけ多くの窓を南面に設けることを検討します。ひとつの目安は「南面に窓を設ける部屋の床面積の20%以上」が目標です。

【図表3:冬の方位別の日射量】

【図表3:冬の方位別の日射量】 ※東京での最大値

【図4:太陽の動き】

LIXIL 知っ得アカデミー動画 日射コントロール編

2)適切な南面の窓を選んで標準仕様とする

詳細な計算をすれば、建設地ごとに「どんな窓がもっとも有利か?」ということがわかるのですが、そのあたりはメーカーなどに聞いてみてください。ここで言えるのは「Low-Eガラスであれば絶対に日射取得型のガラスにするべき」ということです。先ほど日射取得型のガラスを使った窓なら半分くらい日射熱が入ると述べましたが、日射遮蔽型にしてしまうとそれが30%くらいに落ちてしまいます。でも、同じサッシであれば日射遮蔽型のガラスを使った窓と日射取得型のガラスを使った窓でほとんど断熱性能は変わらず、逃げていく熱量はほとんど同じです。

3)日照シミュレーションを実施しながら設計を進める

1)と2)で設計に向かう基本スタンスを整えたら、実案件でまずやるべきなのが日照シミュレーションです【図表5】。

【図表5:日照シミュレーション】

【図表5:日照シミュレーション】 SketchUpによる作成例

いくら南面に適切な窓をたくさん設けても、そこに日射が当たらなければ意味はなく、配置計画やプランニングを考えながら「日射がきちんと窓に当たるかどうか」を検討しなければなりません。そしてこの「配置計画、建物のプランニング(目標とする南面の窓面積を確保すること)、日射をきちんとその窓に当てる」を同時に考えていく過程が、この日射熱利用暖房という設計手法においてもっとも難しいところであり、もっとも面白いところです。とくに密集地や南の隣棟が近い敷地では、こうした設計力が大きくモノを言います。
断熱性能を上げるという技術は、(もちろん施工力は必要ですが)断熱仕様をレベルアップすればよいだけの話なので、設計力は不要です。だからある意味誰でもできることなので国はとにかく断熱性能を上げる施策を打ち出し続けていると私は思っています。「いや、ウチは設計力で勝負したい、勝負している」と考えている住宅会社であれば、ぜひこの日射熱利用暖房に取り組んで、他社との違いを見せつけてほしいと思います。

日射をコントロールする

適切な断熱性能を確保しながら、日射をコントロールするのがパッシブデザインの肝です。たとえば、先ほど「南面には日射取得型のガラスを使うべき」と書きましたが、これだけを見れば夏には不利になるので、それが正しいとは言い切れないと思われた人もいるのではないかと思います。しかし2回目で述べたように、夏対策としては窓に外付けの日除けを設けることが大前提であり、そうすれば日射取得型のガラスと日射遮蔽型のガラスとの日除け効果の違いはほとんどなくなります。つまり、南面の窓は「日射取得型のガラス+外付けの日除け」という組み合わせにすることで、冬はしっかり日射熱取得ができ、夏はしっかり日射遮蔽ができることになるわけです【図表6】。まさしくこれが日射のコントロールです。

【図表6:南面の窓における日射のコントロ−ル】

【図表6:南面の窓における日射のコントロ−ル】

また、冬の日射がそれほど期待できず、夏の日射量が大きい東面や西面の窓は夏対策を重視して日射遮蔽型のガラスにするのが適切です。南面の軒や庇を大きく出すと夏には有利ですが、冬の日射熱取得は不利になるので最適な出幅を考えたり、軒をしっかり出すなら南面の窓面積をさらに増やす設計を考えます。繰り返しになりますが、単なる高断熱住宅ではこうした発想は生まれません。そしてこのように日射をコントロールするという繊細な設計を行った住まいのほうが快適・健康・省エネのレベルは間違いなく向上します。

連載のさいごに

この3回の連載では限られた文字数の中で、できる限りわかりやすくポイントを絞った解説をしてきたつもりです。でも、まだまだ言い足らないところがたくさんあります。みなさんも疑問を持ったり反論したくなったところがあったかもしれません。
「パッシブデザインはおもしろそうだな」と思ってくれた人も、疑問や反論を抱いた人も、とにかく一度パッシブデザインに関してしっかり学べる場に来てください。絶対に損はないと断言します。
たとえば、私が代表を務めている「Forward to 1985 energy life」(http://to1985.net/)という団体では、パッシブデザイン、温熱環境、省エネルギー住宅に関するとても多くの学びの場を提供していますし、この連載を企画したLIXILでも様々な勉強会やセミナーを開催しているはずです(私も講師に呼ばれたりしています)。パッシブデザインはわかればわかるほど面白くなっていきます。それを感じた住宅会社は営業的にも住まい手の満足度的にも大きな成果を上げています。この連載をきっかけに、ぜひ本気でパッシブデザインに取り組む一歩を踏んでほしいと心から願います。

2021年1月 野池 政宏

野池 政宏

野池 政宏 - Noike Masahiro -

住まいと環境社代表
一般社団法人Forward to 1985 energy life 代表理事

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公開日:2021年02月26日