住宅をエレメントから考える(前編)

床にまつわる8つのフレーズ

塩崎太伸(建築家)

『新建築住宅特集』2016年3月号 掲載

  • facebook
  • twitter

※文章中の(ex.JT1007)は雑誌名と年号(ex.新建築住宅特集2010年7月号)を表しています。

床の「規模」を設定する

住宅の設計において、床の「大きさ」は法規制や建主の要望など、外在する与件によってある程度の部分が決まるだろう。同時にそれは、床に内在する最も基本的な性質であり、広がり、形態、プロポーションなどと関係をもつ。それらの兼ね合いから、建築家に選びとられた床の「大きさ」は、私たちの身体や敷地の残余空間に影響を与える。

床の大きさと「身体」

「デッキは室内の床より大きい。デッキの先端に立って室内を眺めると、 床の延長であることを忘れ、敷地外の地面に立っているような感覚になる」武井+鍋島《シックイの家》JT0806
「〈小ささ〉を〈近さ〉と読み替え、これを突き詰めることで住宅は建築の領域を超えでてプロダクトの世界へとつながってしまった」原田真宏《near house》JT1007
「約四畳の小さな床が螺旋状にぐるぐるとのぼっていく、壁のないひとつながりの空間を考えた。床は全部で10フロア…各床は、部屋と呼ぶには小さすぎるが、場所ごとに家具を設えることで、ヒトとモノの居場所がジャストフィットした大きさになっている」長岡+田中《ジュッカイエ》JT0908

床の大きさと「予算・人数・制度」

「容積率いっぱい分の床を生活の行為ごとに切り分けて、空間内に再配置する気分で設計を進めた」ヨコミゾマコト《ある家》JT1412
「建築面積としては許容値の半分以下で計画されているが、必ずしも床面積の広さが生活の豊かさにつながるわけではなく…この小ささが、生活と外部との密接な環境をつくり出している」川辺直哉《鎌倉材木座の住宅》JT1501
「家族5人の新しい生活の場として、大きな一枚の『床』を用意した」末光弘和+陽子《松山の住宅》JT0605

床の大きさと「敷地の残余」

「床の広さを捨て、その代わりにできた周りの空地を天空率として使い、高さ9mの塔のようなボリュームをつくり出した」畝森泰行《Small House》JT1102
「必要な床面積を総2階にまとめ、敷地の形状との間に生じる4つの大きさの異なる隙間が、それぞれ個性をもった庭となるような配置とした」塩塚隆生《青い家》 JT0506
「戸を開けてしまうと、空間を規定する角の柱さえもないから、床面はガラス面を越え敷地境界まで延びてしまう」手塚貴晴+由比《庇の家》JT0610

床の大きさと「かたち」

「3間角の平面をもつ住宅である…1間角のスペースが最小の空間単位ではないか?という考えから、諸室をこの1坪という単位で構成してみた」手嶋保《浜田山の家》JT0210
「五角形の平面と複雑な床レベルの構成によって、室内にいると道路や隣地の位置が掴みにくく、方向と高さの感覚が希薄に…」堀部安嗣《浅草の家》 JT0709
「幅の異なる床が連続して中央に吹き抜けができ、リビングまで見通せる」妹島和世《土橋邸》 JT1206
「細長い空間には細長いなりの使い方や働きかけがあるようだ。…横に並ぶと対戦している感覚が薄れて、なにかみんなで協同作業をしているような気分になる」林敬一《UK》JT0512

床の広がりの「増減」

「鉄筋コンクリートのスラブ下に増築することが可能」石井修《目神山の家19》JT0702
「DIY的に棚板を追加したり、整理したりする感覚に近い床の考え方」金田充弘(構造)《上原の家》JT0604
「床・壁・天井を取り払って住むこともできる」眞田大輔《門型の家》JT0709
「耐風梁上部は余白とすることで、当面は大らかな広がりを楽しみ、将来は自由に増床できる場所としている」田中昭成《横浜ホンズミ邸》JT1401

床の「素材」が空間を色づける

床とその素材の関係は、「鶏が先か卵が先か」という循環参照の問題を含んでいる。建築が実体を伴う以上、建築家は必ず素材と向き合うが、抽象的な床を思考したとしても、建築家は素材の選択を迫られる。そして床の素材を選ぶということは、素材がもつ質感やスケールのみならず、意味や歴史など目に見えないもろもろの性質をも、住宅とそこでの営みに付与するということである。

床の素材・色と「意味」

「設計依頼のキーワードは、旅館『俵屋』のような落ち着きがあり『サザエさんの家』のように団欒のある家であった。そのため、床材や、造作材などは落ち着いた色合いをしたチークを用い、壁は漆喰仕上げを基本としている」林雅子《アトリウムのある家》JT0305
「『畳の床を積層させた塔』という実に魅力的なイメージ」塚本由晴《タワーまちや》JT1007

床の素材・色と「光」

「RC造の壁と床・開口がつくる明暗差…空間体験にコントラストをつくり出す」窪田勝文《T-HOUSE》JT0709
「黒御影の床からの照り返しで箱の中をほのかに明るく …」今井公太朗《Double Square》JT0404
「南側の緩衝空間の床は、光を天井面などに反射させ…三層目のスラブは、内部に存在する庇のように、日射の調整もする」五十嵐淳《相間の谷》JT0901
「開口を下方に集約させ広い床・壁・天井を残すことで光は拡散し景色が映り込み、光も溜まる」大坂崇徳+美保子《ATMN》JT1211
「光は真っ白の床でリバウンドして室内に広がる」小嶋一浩《LONG HAT》JT1501

床の素材・色と「物性」

「床はミモザ材をヘリボーン張りにすることで、空間に方向性をつくらない」伊藤博之《OKUSAWA》JT1102
「床仕上げは正方形のパーケットフローリングとし…方向性をもたないように…」都留理子《生田H》JT0707
「床といった面材には桐を使い、触感も空気もさらっとさわやかなものになるように配慮」堀部安嗣《市原の家》JT1109
「床や天井は抽象的な白い面とし、大きく跳ね出して浮遊感を強調」岸田省吾《阿音の家》 JT0408

床の素材・色と「用途」

「室内犬として共に暮らす…床材を清掃性のよいものと …」横山敦士《as house》JT0408
「床仕上げはその部屋の用途により、畳、フローリング、カーペットと切り替え…」川辺直哉《泉区の住宅》JT0404
「床仕上げには熱伝導率が高く蓄熱性のあるフレキシブルボードを用いて、床暖房とダイレクトゲインの効果を…」難波和彦《箱の家142》JT1405

床の素材・色を「連続させる」

「床や造り付けの家具はすべてMDF材の染色仕上げで、床から派生して存在しているかのように…」鈴野+禿《港北の住宅》JT0811
「内外部の床を同じ磁器質タイルで仕上げることで、内外部の境界を意識させないシームレスな空間」小川晋一《センターコートの家》 JT0706
「床はすべて黒塗りとし、置かれる家具も同色にして、その存在を床に吸収させた」六角美瑠《浅間観荘》JT0612

床の素材・色を「変化させる」

「ただひとつ違う床の素材がふたつの部屋の印象を異なるものにしている。床に落ちた光が、木肌のもつ柔らかく暖かい色を反射させる広間に対して、図書室の床は黒く沈んでいる」杉下+出口《かみのきの家》 JT1201
「床の仕上げなどを変えることで1階と2階の空間をすべて変化させることを試みた」納谷学+新《鷹ノ巣の2世帯住宅》JT1204

このコラムの関連キーワード

公開日:2016年06月30日

  • facebook
  • twitter