INTERVIEW 005 | SATIS

開くことと閉じること。── 富山滑川の家

設計:原田真宏・原田麻魚/MOUNT FUJI ARCHITECTS STUDIO | 建主:大倉憲峰さま(Stroog Inc.代表)

外部の秩序に呼応する

原田さんは雄大に広がる立山を受け止めるように、そして建築自体が自然の一部であるようにつくりたかったと言います。この2階の木構造の塊が遠くに見える山と対峙するように力強く向き合っています。そして1階からは山や、山と家の間に広がる田園風景を眺められるようになっています。建築は人間がつくる人工物ですが、出来てしまえばそれは自然の中の風景の一部になっていきます。それゆえ自然界の秩序にどのように呼応していけるかを考えるのだそうです。そのためには、まずは外部の風景や自然の中にある秩序を見つけることからはじめます。ここでの自然の秩序は雄大な立山だと考え、その立山に向き合い、そして融合させていきたいと考えたそうです。

部屋の内部から立山を望む。

部屋の内部から立山を望む。
photo: Ryota Atarashi

1階平面図

1階平面図(クリックで拡大)

2階平面図

2階平面図(クリックで拡大)

家の内側の秩序と外側の秩序

建築をつくるという行為は、人工的で恣意的なものです。ですので、そこにはある新しい固有の秩序をつくり出します。外から閉じた空間であれば、内部の秩序は保ちやすいと言えますが、原田さんは家のアウトラインを開こうと試みます。そうすると内部の秩序は保ちにくくなります。外に向かう壁を開けば外の世界が中に入ってきて内部の空間の秩序が消えていきます。しかしあえて開きながらも内部の秩序と外部の秩序がどう呼応させるか、そのための解決策が2層に分かれた上部の木の塊の箱です。融合というのは単に混ざり合って解けあうというより、それぞれの強度や個性を感じながら、それらをより際立たせていくこととも言えます。この建物でも1階と2階の構造の対比や、構造グリッドを合わせないことでそれぞれの秩序をぶつけていきます。そしてその両義性を最大に感じるところが外と内が交わる家のアウトラインなのです。その両義性が人間に心地よさを作り出すと原田さんは話します。このことは原田さんの建築の様々なところに現れます。明るいところと暗いところ、開かれたところと閉じたところ、重いところと軽いところ。それぞれ対比の強さをあえて作っているのかのようです。

内部と外部の境界、窓を開けると外部空間と一体となる。

内部と外部の境界、窓を開けると外部空間と一体となる。
photo: Ryota Atarashi

自然とそうしたくなる

それぞれの場所を外の秩序との関係で原田さんは語ります。例えば洗面であれば、綺麗な湧き水に自然と手を入れたくなるような場所。お風呂であれば大自然の水溜りに浮かんでいるような場所、キッチンであれば広大な自然の中で火を囲んでいるような場所、トイレは岩穴に隠れるような場所というように、外の秩序を意識するからこそ生まれる独特の表現でその場所での行為を表現しています。暮らしに必要な機能を、その行為をするための場所である以上に、外部との関係を意識できるように、自然とそうしたくなる空間をつくりだそうとしているのです。

このコラムの関連キーワード

公開日:2017年12月25日