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街のスタンド──都市住宅を住み開く

落合正行(建築家、日本大学理工学部まちづくり工学科)

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今回、自邸《上池台の住宅 いけのうえのスタンド》(2016)と、そこでの取り組みを紹介するにあたり、触れておきたい都市問題がある。まずはその点を共有してから、読み進めてもらいたい。

《上池台の住宅 いけのうえのスタンド》外観

《上池台の住宅 いけのうえのスタンド》外観
写真=堀田貞雄

今こそ都市居住を見直すとき

現在、日本の都市居住において変化が著しい。人口減少社会への突入が発表された2005年以降、少子化や高齢化などが紙面を賑わすようになると、各種業界で低コスト競争が始まり、非正規雇用者が増大するといったデフレ経済への推移が顕著になった。さらに、いつ起こるかわからない震災への不安が絡み合い、都市居住を前向きなものとして捉えにくい現状である。さらに、2014年の地方再生の号令を皮切りに、各地で6次産業化や移住・定住促進などが図られ、人々の関心の的は都市から地方へ移りつつある。地方の良さはなんといっても、その土地土地で育まれる文化や習慣、人情など、時間とともに成長してきた地域性だ。今回の舞台である東京も、かつては地域性に満ち溢れていたはずだが、ここまで成熟しきってしまうと、もはや見失ったも同然ではないだろうか。こうした状況下で、都市居住の魅力とは何か、改めて考え直すことにした。そして、新たにつくる都市住宅とはどういう建築であるべきか、このプロジェクトはこれらを思考するところからスタートした。

アーバン・ローカリティを掘り起こす

都市居住の魅力を、隣近所に誰が住んでいるのかわからないという匿名性ゆえに、近隣関係の煩わしさがないことだと考える人は少なくない。しかし、前述したような震災を例にとっても、これからの時代は都市だからこそオープンな住まい方のほうが活きてくる。とくに、私たち夫婦のようなDINKS世帯や、その他高齢者世帯などは、自ら外部と意識的に関係をつくらなければ、地域との接点をもたず建物内ですべてが完結してしまい、社会から認識されなくなるという怖さにつながる。そこで、このプロジェクトでは都市住宅を自らの手で住み開くことで、かつてあった都市のなかの地域性、すなわちアーバン・ローカリティを掘り起こし、新たな都市居住の魅力に結びつけることを狙った。

《上池台の住宅 いけのうえのスタンド》は、東京都大田区の幹線道路から1本通りを入った住宅地に立地する。周囲には今でも大きな区画の宅地と豊かな緑が残る。その一方で、相続などでマンションに建て替わったり、切り売りされた土地に建売住宅が立ち並んだり、新旧の住人が入り混じる混沌とした状況である。建物は地上3階建てで、私たち夫婦と愛犬が暮らす住居と、設計事務所からなる事務所兼用住宅。

《上池台の住宅 いけのうえのスタンド》1階平面図

《上池台の住宅 いけのうえのスタンド》1階平面図[クリックで拡大]
筆者提供

同、断面図[クリックで拡大]

同、断面図[クリックで拡大]
筆者提供

1階の通りに面して設けられた小屋型のヴォリュームは、普段は夫婦が営む設計事務所として使用しているが、週末にはミニ盆栽教室を開いて土いじりを楽しんだり、子どもたちと江戸風鈴の絵付け体験をしたり、集まった方々にコーヒーを提供したり、近隣住人とともに時間を共有するパブリック・スペースに一転するのだ。これらのイベントには、この辺りに元から住むお年寄りから、新たに移り住んできた若い夫婦まで、多様な世代が参加しているのが特徴である。

スタンドでのイベントの様子。イベント終了後、参加者にはスタンドで煎れたコーヒーをふるまい、会話の時間を楽しむ
スタンドでのイベントの様子。イベント終了後、参加者にはスタンドで煎れたコーヒーをふるまい、会話の時間を楽しむ
スタンドでのイベントの様子。イベント終了後、参加者にはスタンドで煎れたコーヒーをふるまい、会話の時間を楽しむ
スタンドでのイベントの様子。イベント終了後、参加者にはスタンドで煎れたコーヒーをふるまい、会話の時間を楽しむ

スタンドでのイベントの様子。イベント終了後、参加者にはスタンドで煎れたコーヒーをふるまい、会話の時間を楽しむ

通りからイベントの様子を見る

通りからイベントの様子を見る
以上、筆者撮影

街との接点をつくるスタンド

住まいの一部を街に開くとしたとき、単にガラス張りにすればよいかというとそうではない。一方通行の開放では人は近づきにくいからである。ここでは敷地間口が約6mと狭小住宅のなかでも比較的長く、前面道路との境界のデザインがポイントとなった。そこで、間口いっぱいに軒を設け、開口を低く抑えるだけでなく、行き交う人々に気軽に立ち寄ってもらいたいという考えから、通りに面してカウンターを設け、この場所を「スタンド(立ち寄り所)」と名づけた。また、通常の事務所であれば奥まったところに配置される水まわりをあえて前面に置き、日常的にスタンドに立つことで、通りを行き交う人々とカウンター越しに対話が生まれるように考えた。

スタンド内部の様子

スタンド内部の様子
写真=堀田貞雄

しかし、建坪わずか9坪にも満たない住宅の一部の限られたスペースを有効的かつ多目的に活用するには、さらなる工夫を要した。例えば、スタンドを駐車スペースと一体利用できるように、ひと続きの軒と土間で構成するとともに、仕切りは3枚引きの建具を用い開け放てるようにしたり、住宅内の家具のモジュールを統一し、可動性によってレイアウトや使い方の汎用性を高めたりしている。

境界デザインが新たなパブリック・スペースをつくりだす

隣家との境界にも工夫がある。旗竿敷地である隣地の竿地部分を街に開かれた外部空間と捉え、隣家との合意のうえ敷地境界線をまたいで、カウンターから延長する窓台を兼ねたベンチ、通称「窓台ベンチ」を設けた。陽射しのよい日は、子どもたちの格好の遊び場となっている。そして、今では隣3軒がそれぞれスタンドや駐車スペースを開放し、年に数回バーベキューを楽しむようにまでなった。

隣3軒でのバーベキューの様子。スタンドが野菜を洗う場所になったり、隣家の駐車スペースが焼き場や子どもの遊び場に変わる

隣3軒でのバーベキューの様子。スタンドが野菜を洗う場所になったり、隣家の駐車スペースが焼き場や子どもの遊び場に変わる
以上、筆者撮影

このように、密集した住宅地ではそれぞれの敷地内に残された小さな隙間を供与し合うことができれば、有効なパブリック・スペースとなりうる。さらに、間口いっぱいの軒、立ち寄りやすいカウンター、活動の中心である水まわり、近隣との共有のベンチといった境界のデザインによって、都市におけるパブリック・スペースのあり方を大きく変えている。それが、ひいてはこれまで魅力を欠いていた都市居住の楽しみ方にもつながると信じている。

落合正行(おちあい・まさゆき)

1980年生まれ。建築家、日本大学理工学部まちづくり工学科助手。博士(工学)。主な作品=《旧澤村邸改修》(2012、共同設計:山中新太郎)、《ワカミヤハイツ あだち農まちプロジェクト》(2015)、《上池台の住宅 いけのうえのスタンド》(2016)。主な論文=「都市部における住民自治組織の活動拠点施設の支援制度に関する研究」(2018、博士論文)ほか。

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公開日:2019年03月27日

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