住宅をエレメントから考える

〈キッチン〉再考──料理家と考えるこれからのキッチンのあり方(後編)

樋口直哉(料理家/作家)×浅子佳英(建築家)×榊原充大(建築家/リサーチャー)×西澤徹夫(建築家) 作図:木下真彩(グラフィックデザイナー)

『新建築住宅特集』2019年12月号 掲載

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『新建築住宅特集』ではLIXILとの協働で、住宅のエレメントやユーティリティを考え直す企画を掲載してきました。「玄関」(JT1509 & 1510)、「床」(JT1603)、「間仕切り」(JT1604)、「水回り」(JT1608 & 1609)、「窓」(JT1612)、「塀」(JT1809 & 1904)と、さまざまなエレメントを取り上げ、機能の側面だけではなく、それぞれのエレメントがどのように住宅や空間に影響をもたらしてきたのかを探ります。
今回は住宅の「キッチン」を取り上げ、マトリクス(図)を軸に分析した前編(JT1909)、リサーチからなる中編(JT1910)で、キッチンの現状と今後の可能性について探ってきました。締めくくりとなる後編では、「これからのキッチン」のあり方への提案を行います。提案にあたっては建築家の西澤徹夫氏、グラフィックデザイナーの木下真彩氏も参画し、前・中編での議論を踏まえてアイデアを膨らませました。

※文章中の(ex JT1603)は、雑誌名と年号(ex 新建築住宅特集2016年 3月号)を表しています。

マトリクスマトリクス

「これからのキッチン」提案1

バラバラの行為と人を結び付ける

テーブル・キッチン

1~3人程度の少人数で暮らす人びとのためのキッチンの提案。前編中編で示した「これからのキッチン」を考えるマトリクス(記事冒頭)の中では、第3象限の「コミュニケーション×ミニマル」に相当する。年齢や性別問わず、男女または男性同士や女性同士でシェアして暮らしている場合もあれば、高齢者(+介助者)の使用も前提に置いている。

今までのキッチンは料理している時間以外は使われておらず、また、キッチンでは食事ができないようになっているために、しばしばベッドの脇で食事をしたり、料理や後片付けがひとりに集中したりするなど、現代の生活には合わなくなってきている。さらに現在は、在宅勤務も当たり前になってきていることから、大きなテーブルを用意し、そこで料理も食事も仕事も家事も余暇も行う。しかも、それらの行為が切り分けられるのではなく、ズルズルと果てしなく続いていく。バラバラの行為と人をふたたび結び付けるためのキッチン。

テーブルの座る位置によって生まれるヒエラルキーをできるだけなくすために、大きな天板の中央にシンクと食器洗い機を埋め込んであり、テーブルのどこにいても調理できるように、コンロは小型で可動式のコースター型電気調理器(p2・③コースター型電気調理器)とした。電子レンジもテーブルの上に小型のものを置いている(p2・④卓上電子レンジ)。また、片付けの手間をできる限り最小限にするため、食器洗い機は食器棚に、電子レンジは保管庫を兼ねる。さらに天板全体が充電機能を備え、どこに座っても電源ケーブルに煩わされることなく電子機器を使用することができる(p2・②フリーアクセス・テーブル)。現状のとりとめのない生活を肯定したうえで、快適に暮らすための提案。

テーブル・キッチン

「これからのキッチン」提案2

職住のハブとなる創造的空間

コミュニケーション・キッチン

4人以上で使用するコミュニケーションのためのキッチンの提案。前編中編で示した「これからのキッチン」を考えるためのマトリクス(記事冒頭)の中では、第4象限の「コミュニケーション×充実」に相当する。SOHOなど住む場所と働く場所とが一体となった暮らしにおいて、キッチンが交流のハブとなることを前提に置いている。

これまでのキッチンでは複数の人が一緒に料理することが難しかった。また現在、キッチンの充実は、調理科学を反映したガジェットを追加していくことと同義になりつつあるが、現在のキッチンにはガジェットの置き場所が用意されていない。さらに、さまざまな宅配サービスが誕生しているが、ワンルームマンション以外の多くのキッチンは玄関からは遠い場所にある。そこでこのキッチンは玄関を拡張するかたちで設け、複数で料理するための複数のテーブルと、さまざまな最新のガジェットが登場しても、その都度収納することができる電源付きの棚を用意。さらに宅配ボックスに温蔵庫と冷蔵庫を備え、配達されたものがそのまま冷温蔵できるようにする。温室とコンポストも備え、堆肥は温室の土として還元される。

テーブルの天板は高さも変えられるので、作業する姿勢に応じて使用することができる。仕事の打ち合わせの合間にコーヒーを入れたり、その脇で簡単な料理したり、中食を盛りつけたり、時にはテーブルすべてを使用して下ごしらえが必用な複雑な料理をすることもできる。つくるプロセスが可視化されることで、人びとが創造的にふるまうことを後押しする。

コミュニケーション・キッチン

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公開日:2021年02月24日

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