「認知症になってもやさしいスーパープロジェクト」

マイヤ仙北店(岩手県)における、認知症の方に配慮した男女共用トイレの実現

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参加者
施 主:辻野晃寛氏(株式会社マイヤ 執行役員、販売部統括マネージャー兼沿岸地区 地区長)
設計者:小林純子氏(有限会社 設計事務所ゴンドラ 代表取締役)
設計者:村上智可氏(有限会社 設計事務所ゴンドラ)
監修者:野口祐子氏(日本工業大学建築学部建築学科 教授)
LIXIL:溝部朗子(株式会社LIXIL LWTJ営業本部 設備PJ営業部 スペースプランニングG)

マイヤ仙北店「マイヤテラス」に新設された男女共用トイレ
マイヤ仙北店「マイヤテラス」に新設された男女共用トイレ。LIXILはトイレメーカーの知見を生かし、プランニングから携わった

岩手県内を中心に店舗展開しているスーパーマーケット「マイヤ」では、2019年より認知症の高齢者が自分のペースでゆっくりショッピングを楽しめる「スローショッピング」に取り組んでいる。認知症の方が自分の意志で買い物をすることで自信を取り戻し、日常生活においても前向きな変化がみられると、いま全国から熱いまなざしが注がれている。
この取り組みは、NHK厚生文化事業団主催の「認知症とともに生きるまち大賞」でニューウェーブ賞(2019年)を受賞し、「スローショッピング」という言葉が広く知られるきっかけとなる。その受賞式で同じくニューウェーブ賞受賞したパブリックトイレの研究者・野口祐子氏からトイレの重要性について話を聞いたマイヤ社長の井原良幸氏は、スーパーにおけるトイレの問題を再認識。野口氏を監修者に迎え「認知症になってもやさしいスーパープロジェクト」に、新たなプロジェクトが加わる。それが、「認知症の方にも使いやすい男女共用トイレ」をつくること。そして2022年春、新たにスローショッピングを実施するマイヤ仙北店のイートインスペース内に、このトイレが実現した。
今回は、プロジェクトに参加された皆さんにお集りいただき、プロジェクトで担われた役割と、これからのトイレについてお話を伺った。

認知症の方が自分のペースで買い物できる店「マイヤ」

──「認知症になってもやさしいスーパープロジェクト」を立ち上げた株式会社マイヤの辻野氏より、プロジェクトの概要をお聞かせください

辻野晃寛氏(株式会社マイヤ 執行役員、販売部統括マネージャー兼沿岸地区 地区長)
辻野晃寛氏(株式会社マイヤ 執行役員、販売部統括マネージャー兼沿岸地区 地区長)

辻野氏:認知症の方が人との交流を通して、家族の中でも役割を担うなどの社会参加を促すことを目的に、まずは、認知症の方が自分のペースで買い物できる環境をスーパーとして提供できないかと考えました。地元の地域包括支援センターや滝沢市社会福祉協議会とタッグを組み、マイヤ滝沢店で毎週木曜日の午後に「認知症になってもやさしいスーパープロジェクト」をスタートさせたのが2019年7月です。
主な取り組みは3つあります。1つは、認知症の方をサポートする「パートナー」を配置して、お買い物の手助けをしています。パートナーは認知症サポーター養成講座を受講された方で、すべてボランティアです。
2つ目は「スローレジ」の実施です。高齢者や認知症の方々は会計時の支払いに時間がかかり、後ろの方を待たせて申し訳ないとストレスを感じている、と医師の方々からご指摘いただき、それを緩和するためにゆっくりお会計ができる優先レジを設けました。
3つ目は、認知症の方や付き添うご家族が多くの方と交流できる場として、イートインスペース「マイヤテラス」を活用した「くつろぎサロン」の開催です。
それ以外では、本日の議題でもあります、トイレやショッピングカートなどハード面での改修・改善を行っております。こうしたハード、ソフトをひとつのパーケージとして取り組むことで、認知症の方々が外に出る機会を少しでも持っていただければと思っています。
一例ですが、奥様が認知症で、旦那様が介助で付き添われるSさんご夫妻の場合です。認知症の奥様は旦那様が隣にいないと情緒不安定になることから常に傍を離れられなかったのですが、スローショッピングに参加されるようになってからは、旦那様から離れても、パートナーさんが付き添うことでお買い物を楽しむことができるようになりました。
スローショッピングをスタートした頃、イートインスペース「マイヤテラス」を高齢者の方々が多くの座席を使用していて他の利用者が使えない、などの否定的なご意見もありましたが、それも一度だけで、その後は日常のシーンとして受容されていきました。
このプロジェクトには、日本工業大学の野口祐子先生や設計事務所ゴンドラの小林純子先生にコンサルタントとしてご参加いただき、みずほリサーチ&テクノロジーズの方々に事務局をお願いして、令和2年(2000年)の経済産業省「サービス産業強化事業費補助金(認知症共生社会に向けた製品・サービスの効果検証事業)」の補助事業に採択されました。今年で3年目になります。

マイヤ滝沢店
滝沢店のくつろぎサロンの案内板(左)。オレンジのバンダナを付けたパートナーたちが認知症の方の買い物をお手伝いする(中)。認知症や高齢者の方が、ゆっくり会計ができる専用のスローレジ(右)(写真提供3点とも:マイヤ)

──マイヤ仙北店は2022年4月にリフレッシュオープンし、それに伴ってイートインコーナーに「認知症の方に配慮したトイレ」が新しく完成しました。今回の改修の目的は?

辻野氏:仙北店のイートインコーナー「マイヤテラス」を「くつろぎサロン」にするには、やや閉鎖的な空間だったこともあり、新しくトイレを設置することで人の流れを増やす狙いがありました。また、滝沢店でスローショッピングをサポートするパートナーやご家族の方から、トイレの場所が遠いと何度か言われていました。認知症の方は20〜30分ごとにトイレに行かれます。今回、仙北店を改修するにあたり、イートインコーナーの近くにトイレを設置し、認知症の方や高齢者の方に安心して参加していただきたいと思いました。野口先生や小林先生には無理難題をお出しして、挑戦していただきました。

座談会のようす
座談会の様子。左から、溝部、野口氏、辻野氏(モニター)小林氏、村上氏
マイヤ仙北店正面
マイヤ仙北店正面
「マイヤテラス」(写真奥)と隣接するベーカリー
正面入口を入って左手にあるイートインスペース「マイヤテラス」(写真奥)と隣接するベーカリー

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公開日:2022年10月20日

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