国内トイレ×キッチン・サーベイ 4

パブリックとトイレをつなぐもの/あるいはその間にあるものを探ること

岩崎克也(日建設計)

  • facebook
  • twitter

今回のテーマはパブリック・トイレであり、「・」で併記されているところが興味深く、いわゆる公衆便所と呼ばれるものではない。今回は、このテーマをさらに掘り下げて、パブリックとトイレとの関係について考察してみたい。

それぞれの定義について──パブリックとトイレ

パブリック──年齢や性別を超えて、いろいろな人種の人が集まる場所、公共の場所、誰もが自由に訪れ、活動しうる場所。表の空間。
トイレ──排泄する場所。ひと昔前までは、臭う、汚いなど衛生上の観点から(雪隠などにみられるように)建築計画上一番離れた位置に配置。もともとは裏の空間として存在。

拡張するパブリックスペース

パブリックスペースのありようは、私たちの生活に少しずつ変化をもたらしている。大勢で集まれる場所だけでなく、それぞれがそれぞれの目的で利用できる多様なパブリックスペースが都市空間に潤いを与えてくれている。昨今、公共の場所の中にもひとりになれる場所も大事な空間とされている。このことは、槇文彦氏も著書『漂うモダニズム』(左右社、2013)所収の論考のなかで、パブリックスペースの中でもひとりでたたずめる空間の重要性を「独りのためのパブリックスペース」として記している。

《スパイラル》エスプラネード(階段室)

《スパイラル》エスプラネード(階段室)
筆者写真

変容するトイレの空間

日本ではパブリックな空間では、トイレに行きたければ簡単にそこにアクセスができる。単体の公衆便所だけではなく、駅やデパート、店舗といった商業施設などに計画的に整備されたトイレは(海外に比べても)非常に安全で衛生的であり、利用しやすくなっている。最近では、排泄以外にも新たな機能が付加され、トイレの役割が広まりつつある様子が窺われる。
その背景には、都市インフラの整備によって衛生上の問題がなくなったことは当然のことながら、そこを利用する人のニーズも多様化することで、トイレの位置づけも変化していることが考えられる。
例えば、着替える、化粧をするといった利用者のニーズを満たすだけでなく、化粧品メーカーとタイアップしてサンプルを設置したり、家電メーカーとタイアップしてドライヤー、美顔器などを置いているトイレだってある。大規模商業施設では主要動線に至近な位置にトイレが配置されるようにもなってきている。利便性から、売り場とトイレとの距離が100m以内をひとつの目安としている。

オフィス空間では、この30年ほどの変化を見ても、効率重視で、窓もないコンパクトなトイレの計画から、自然光の入る明るいトイレが主流となってきているし、業務時間内でのONとOFFを切り替える場所であるとともに、インタラクティブな交流が行なわれる空間にも、独りきりのプライベートな空間にもなりうるのではないかと考えられる。コンビニのトイレもその一例であり、買い物とトイレを組み合わせただけでなく、タクシー運転手にトイレの利用を許可したことで、夜間の駐車場の治安の向上にも一役買っているという。
これ以外にもLGBT(性の多様性/L:レズビアン、G:ゲイ[同性愛]、B:バイセクシャル[両性愛]、T:トランスジェンダー[性別越境者])の人に向けた(配慮した)トイレの工夫も、少しずつではあるが最近ではできはじめている。

このように、都市空間において、拡張するパブリックスペースとトイレ空間の変容によって、それぞれが、お互いの領域をクロスオーバーするような新しい可能性が見えてきそうだ。

パブリックスペース⊇サスティナブルスペース

次に、特定の単位で利用者が入れ替え続ける場所を「サスティナブルスペース」と定義してみる。例えば、大学や介護施設といったものもこのひとつである。
パブリックをもうひとつ踏み越えて(拡大解釈して)、これら大学や介護施設といったある単位で特定の人たちが建物利用する場合に、「学年の単位」であったり、「人の命の期限」であったりと、ある意味サスティナブルに(ユーザーが持続的に入れ替わる建築が)利用されることによってトイレ空間も変化をしてきている。ここでは、筆者が設計に関わった事例について紹介する。

事例1:上智学院ソフィアタワー──行き止まりのないオープンエンド型トイレ

大教室群を抱える大人数が生活する大学校舎にふさわしいトイレのあり方を考えた。細長いトイレ形状を活かし、入口を2ヵ所設け、行き止まりをなくした防犯上も安全安心のトイレである。トイレ動線を日常通過動線に組み込むことで、裏側になりがちなトイレ空間がラウンジや休憩場所と等価な空間として扱われている。窓を大きくとることで明るさを確保し、女性用トイレの中央にはリニアに配置したアイランド型洗面台にパウダーコーナーを設け、女性の身だしなみに利用できる工夫をしている。

昨今、受験生が志望校を選ぶ際、このトイレへの配慮やデザインの密度も志望校決定の決め手のひとつとなっており、各大学ともにそのデザインには力を入れている。

アイランドカウンターの洗面器と大きな窓のある明るいトイレ

アイランドカウンターの洗面台と大きな窓のある明るいトイレ
写真=エスエス東京 堀越圭晋

女性用トイレ平面図

女性用トイレ平面図

事例2:特別養護老人ホームたまがわ──体の自由度に応じて選択できるトイレバリエーション

特別養護老人ホームという重度の障害のある高齢者のために、体の不自由度の度合いに応じて必要な人が必要な機能にアクセスできるように、建築全体で選択の自由度をもたせた、ユニバーサルデザインの便所配置計画である。居室に隣接した水回りを3つのタイプのトイレで構成している。具体的には右半身、左半身とそれぞれの不自由度に応じて、左寄り付き、右寄り付き、前寄り付きの3タイプの便所を各フロアに分散配置し、入居者の体の自由度(右麻痺、左麻痺。あるいはそのほかの状態)に応じたトイレのタイプを選べるようになっている。大きな車椅子便所をすべての部屋に設けることなく、それぞれのタイプのトイレを分散配置することで、経済的な建築計画が実現している。
これは、1カ所ですべてを解決するのではなく、建築全体で成立させたユニバーサルデザイントイレの一例である。

便器に対して右側から寄り付くタイプのトイレ

便器に対して右側から寄り付くタイプのトイレ。これ以外にも左側と前から寄り付くタイプがあり、3つのバリエーションを設定した
写真=門馬金昭

スリット状の窓を設けることで、廊下側からも中の様子を見守りやすくしている

スリット状の窓を設けることで、廊下側からも中の様子を見守りやすくしている
写真=門馬金昭

居室ウイング平面図

居室ウイング平面図。複数のタイプのトイレを設けている

パブリック・トイレのゆくえ

パブリックスペースの拡張、昨今のトイレ機能の変容により、パブリック・トイレの定義が拡張されている。
パブリックとトイレをつなぐもの、あるいはその間にあるものは、大勢と個人の間にあるものであるとともに、ON/OFFの気持ちを切り替える場所である。今後もこの傾向はいっそう加速していくのだろう。

都市の中のパブリックスペースが、民間(とくに商業施設や大学キャンパスなど)で整備したスペースにまで侵食、拡張し続けている。これにともない、かつては閉じた空間であったトイレは、明るく開かれ、パブリックスペースに滲み出し、拡散をしているといった印象である。両者の境界は重なり合うことで、さまざまな行為のレイヤーが重なりあっているのが現在ではないだろうか? この重なった領域は今後、いろいろな方向に深化していくことが想像できる。
また、パブリックを拡大解釈したサスティナブルコモンスペースでは、それぞれのビルディングタイプの中で、それぞれの工夫によってトイレの枠を超え、新しいあり方が模索され始めている。

さて、ここから先、パブリック・トイレはどこへ向かうのだろうか?

岩崎克也(いわさき・かつや)

1964年生まれ。建築家、日建設計設計部長。東海大学大学院博士前期課程修了。主な作品に《上智学院ソフィアタワー》(2017)、《港区小中一貫教育校 白金の丘学園》(2014)、《東京理科大学葛飾キャンパス》(2013)。著書に『未来を拓くキャンパスのデザイン』(彰国社、2018)など。

このコラムの関連キーワード

公開日:2018年11月28日

  • facebook
  • twitter