これからのパブリックのトイレを考える

公共空間における個人の自由を求めて

鈴木謙介(社会学者)| 永山祐子×萬代基介×羽鳥達也(建築家)× 門脇耕三(建築学者、監修)

『新建築』2017年5月号 掲載

提案2:オフィスビルのコアのリノベーション
ビルに吹き抜ける新しい公共空間

萬代基介/萬代基介建築設計事務所

萬代基介(まんだい・もとすけ)
1980年神奈川県生まれ/ 2003年東京大学工学部卒業/2005年東京大学大学院修士課程修了/ 2005?11年石上純也建築設計事務所/ 2012年萬代基介建築設計事務所設立/ 2012?15年横浜国立大学大学院Y-GSA設計助手/現在、東京大学非常勤講師

高層オフィスビルのコアは、レンタブル比を上げるために、エレベータや階段やトイレがコンパクトに押込められることが多い。例えばオフィスのトイレは、働いている時のリフレッシュをする場所として重要であるはずなのに、決して快適とは言えないような、狭く閉じた「裏」の空間になってしまっている。そんなトイレを変えていくことで働き方が変わり、オフィスビルそのものが変わっていくような未来を想像してみる。近い将来、ジェンダーの問題からトイレが男女共用になった時の、あるオフィスビルのコアにあるトイレのリノベーションのケーススタディ。
男女が同じ空間を使うので、職場の人がみんな同じトイレに集まることになり、なにか息苦しさを感じてしまう。そこでフロアの床に穴を開けて上下階を繋ぎ、トイレそのものの公共性(匿名性)を上げることを考えてみる。今日は嫌いな上司がいるので、下の階に行くことができる、もしくは運動のために2階上のトイレに行ってみるなど、今まで行き止まりだったトイレに逃げ道をつくる。そうすると、ビルにおける階ごとの分断は緩やかに溶け、トイレはさまざまな人が使う「ビル全体のトイレ」という位置付けに変わっていく。

また、トイレの個室の数は「待たない確率」で決まっているので、分母が大きくなればひとりあたりの個室数は減り、男女共用となった場合、合計の個室数を減らすことが可能となる。一方、男女共用なので個室自体は遮音性や換気などの性能を上げる必要があり、完全に密閉された個室となる。そうすると個室以外の空間の自由度は上がるので、余剰が生まれたトイレの中に、今までなかった+αの機能を入れることができるようになる。待ち合わせ場所、みんなのキッチン、エクササイズスペース、打ち合わせスペースなどさまざまな機能を階ごとに入れていき、新しい上下階の人の流れを生み出す。
トイレはもはやトイレとは呼ぶことができないような、ビルの中の広場のような場所に変わる。人が集まるきっかけとして、たまたまトイレの個室が置かれているだけで、ビルの中心に風が吹き抜けるような、「表」の空間に変わり、新しい働き方、新しいオフィスビルが生まれるかもしれない。

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公開日:2017年12月25日