窓上手のテクニック/Livearthリヴアース 大橋利紀の心地よく自然とふれあう住まいのつくり方

対談@ 建築実例から見るパッシブデザインのイロハ
リヴアース代表・大橋利紀 氏×新建新聞社代表・三浦祐成 氏

リヴアースのバックデータ

三浦:大橋さんのこれまでの活躍からついたあだ名は「Mr.パーフェクト」、それから「岐阜の哲学者」。今回のお話からその雰囲気を感じ取った方も多いと思います。
実例に移る前に、リヴアースさんや大橋さんの基本的なことを一問一答的にお聞きします。まず、社員数は?
大橋:時短社員も含めると20人弱です。
三浦:新築は年間何棟くらいやられていますか?
大橋:新築とリノベーション合わせて年間16棟までとしています。年によって新築とリノベの割合は変わりますが、新築の方が多いですね。
三浦:基本設計や数々のシミュレーションは大橋さんお1人で?
大橋:基本設計はいまは私1人ですが、スタッフが育ってくればこうした役割を担ってほしいと考えています。シミュレーションは部分的にできるスタッフもいますが、総合的にできるのは私1人です。
三浦:経営もしながらで時間がないと思いますが、1日何時間寝ているんですか?
大橋:大丈夫です。数をたくさんやっていると速度がだんだん上がってきまして、人の3〜4倍のスピードでできるようになりますから。
三浦:1棟単価や顧客層をざっくりとでいいので教えてください。
大橋:当社では必ず庭や家具を含めてご提案するのですが、庭・家具込みの新築で3000万〜1億円越え、中央値をとると税込4000万円くらいです。お客様は共働きの方が多く、どちらかと言うと社会への感度が高く、暮らしに対する価値軸をしっかりと持った方が多いです。

現地と鳥瞰で風景を読む

三浦:こうしたバックデータをお聞きした上で、スライドを見ながら大橋さんの設計の作法についてお聞きします。

先ほどすごく痺れることをおっしゃっていました。「風景」という言葉を分解すると、光と風、景色になる、と。
これを踏まえて「風景のよくないところに窓はつくらない」「風景のよくない場合は自分のところでつくる」「窓から見える風景は、少し遠くが見える程度よりも心動かす風景としたい」といったリヴアースさのルールを振り返ると、理解が深まります。
景色について
三浦:設計の作法で言うと、設計する前に現地にまず行かれるんですか?
大橋:土地が決まっている場合は必ず現地を見ます。
ただ、いまはGoogleマップという素晴らしいツールがありますので、鳥瞰的に敷地を把握しながら、現地では見ることができない2階からの目線、風景がどのように広がっているかを含め確認します。
鳥瞰すると風がどこから吹いてどこに抜けていきそうかが読み取れるので、現地と鳥瞰の両方が必要だと思っています。
三浦:その時にここからの風景が一番いいとか、ここから風が抜ける、光が入る、風景が切り取れるというイメージをある程度固めてしまう?
大橋:そうですね。最初の頃は何時間、何日も考えての作業だったのですが、かなり数をやると、瞬時にこの敷地にはこれが最適だという答えがわかるんです。
訓練すればできるようになると思います。

なんとなく配置する窓は1つもない

三浦:窓の捉え方も面白くて、紹介していただいた「夕暮れの家」では、景色をとる窓、光をとる窓、風を抜く窓と窓ごとに役割を与えていたのが印象的でした。窓の位置だけでなく、窓の役割や種類も最初の現地調査と鳥瞰での敷地の把握でだいたい決まってくるということですか?
大橋:はい。逆に言うと、無目的に、なんとなく窓を配置するなんてことは絶対にないんです。
ただ、世の中の住宅事例を見ていると、南を向いているから掃き出しの窓をつけるとか、西と東は真ん中に腰窓をつけるとか、形骸的になっていることが多いですよね。
すると、窓から見えるのがお隣の壁だったり、自分の家の車であったり、見なくてもいい景色を見ることになってしまう。
そこに窓があれば光は入ってくるし、窓を開ければ風は入っているので、窓としての役割を果たしているとも言えますが、最良の配置ではないことが多いのではないでしょうか。

いい風景がなければ自分でつくる

三浦:「窓上手」になるためには、もちろん光や風は大事なんだけど、まずは何が見えるか、景色に注目する。窓をむやみにつけ過ぎないということも含めて深く考える必要がありますね。
それから、大橋さんのルールの1つである「風景のよくない場合は自分のところでつくる」というのも面白いですね。
これはざっくり言えば素敵な庭をつくるということだと思うんですが、もう少し詳しく教えてください。
景色について
大橋:この「前庭奥庭の家」の立地は、ちょうど窓がある方角が南なんですが、隣家が平屋で、距離が近いんです。
たまたまこの位置だけ隣家の高さが低くなっていて視線が抜ける場所があったので、その抜けと庭とを重ねて設計しました。
ただし隣家のほうが地盤面が低く、庭としてそのまま開くと見たくない景色、この場合は隣家の屋根が入ってきてしまうため、ウッドフェンスを背景として隣家をほどよく目隠しし、手前に植栽、さらにその手前に深い庇がかかるデッキ空間とし、室内と庭を繋げ、最終的に空と室内が繋がるような構成にしました。

仮に隣家がもっと迫っていたり、隣家に高さがある場合はウッドフェンスを高くするというやり方があると思います。
三浦:大橋さんが「庭がない家はつくらない」と決めているのは、何が見えるかという部分に大きく作用するし、お客様の暮らしの満足度にも大きく関わってくるでしょうね。
この「前庭奥庭の家」は私も見せていただいたことがあるのですが、難易度の高い敷地で、こちらの都合では変えられないお隣の景色をどう処理するか、設計者の腕の見せ所でした。

それから「窓から見える風景は少し遠くが見える程度よりも心動かす風景としたい」という哲学的に聞こえるルールもあります。
大橋:ちょっと遠くが見えると気持ちがいいという感覚はみなさんあると思うんです。
それだけじゃなくて、心が動く風景があるほうがいい。
それをすべての住まいで実現したいと思っています。
心が動く風景に大きく貢献するのが植栽であり、陰なんですよね。
三浦:景色ってどうしても遠くを見渡すものと思いがちだけど、その手前にもっと見るべきもの、心地よさを感じるものをつくり込むことができるということですね。
大橋:絶景が見渡せる立地ならそれを存分に取得できるような建物・窓の配置を考えればいいのですが、そんな立地はなかなかないので、こちら側でつくってあげるといいんじゃないかなと思います。

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