窓上手のテクニック/Livearthリヴアース 大橋利紀の心地よく自然とふれあう住まいのつくり方

対談A 日本建築の魅力「陰影」を実現する窓の設計
リヴアース代表・大橋利紀 氏×新建新聞社代表・三浦祐成 氏

陰翳礼讃の美学

三浦:先ほどの、心が動く風景の1つが陰だという話。
大橋さんはスライドで、僕も大好きな谷崎潤一郎の随筆『陰翳礼讃(いんえいらいさん)』を挙げてくださっています。
日本の美
三浦:外側に光の庭があって、その光が障子を通してうっすら入ってきつつ、額縁のように切り取った障子窓から庭が見え、その風景が見える室内側は暗い。
それを1枚の写真で表現した『陰翳礼讃』の表紙と、リヴアースさんの「朝月の家」には重なるものを感じます。
『陰翳礼讃』にもある日本的な感覚や美学を大橋さんなりに解釈して建築に落とし込もうとされているわけですよね。
「朝月の家」
朝月の家
大橋:西洋のものの見方は個と神の二元的、自然界の捉え方も光と影の二元的です。
これに対し日本は多元的な感覚、美学があります。
八百万の神に対して私たちがいる。
光と影も階調、スペクトルで解釈します。
西洋がすべての物事を言語化するのに対して、日本は言外暗示(察する力)や曖昧さを重んじる。
この辺りも光と影の捉え方が大きく違う所以だと思います。
三浦:あえて雑に言うと、西洋の家は明るいか暗いかのどちらかだけど、日本の家は陰影のグラデーションがあって、明るさと暗さの“間”が複層的に存在する、ということですよね。

日射遮蔽と陰影を重ねると1つ上の次元へ

三浦:日本的な陰影の捉え方を窓に落とし込むとどうなるのか。
僕たちは「日射遮蔽」と聞くと、単純に住宅の性能、夏の快適性に関わることだと思ってしまうんですけど、実は陰影を表現する手段と考えることもできる。
大橋:その通りです。当社の場合、陰影表現はかなり優先度の高い検討項目なので念入りに考えます。
日射遮蔽の方法は様々で、日差しを防ぐだけでも価値はあるのですが、そこに陰影表現を重ねるとより価値が上がり、設計を“次の次元”へと導いてくれます。
光の対としての陰ではなく、陰にも種類、階調(グラデーション)がある。
僕は、陰の階調がある空間に奥深さと魅力を感じますし、そこには心を震わせる価値があると思っています。
三浦:日差しを防ぐというより、陰をいかに表現するかがポイントになってくるわけですね。
「風色の家」
風色の家
大橋:この写真の「風色の家」の場合、光の入ってくる大開口の周りの壁が一番暗さを感じ、Rの天井が光と影を連続的に変化させ、そこから反射する柔らかい光が空間全体に陰の階調をつくりながら奥へと広がっていきます。
ここは好みですが、明るさを重視するなら天井まで窓を広げ、陰のグラデーションを重視するならこのくらいの高さの窓がちょうどいいように思います。
ただ、お施主さんの好みの明るさを共有しておかないと、暗すぎるということになるので注意が必要です。
三浦:お施主さんとの光の好みの共有はどのようにやっているんですか?
大橋:言葉や写真だと共有できることは一部なので、空間体験あるのみです。
ただし、体験しても共有できない部分、伝わらない部分はどうしても残るので、言語化して、なぜここがこの明るさ/暗さなのか、感覚と言語をつないであげると共通理解が深まります。
照明も同じで、照度の数値を説明してもわかりませんので、「夜の見学会」で空間体験をしてもらって、作業面の明るさはこのくらい、全体の雰囲気はこんな感じ、と共有します。

ライカで「陰影の階調」を意識する

三浦:これまで紹介していただいた写真はどれも素晴らしいのですが、すべて大橋さんがご自身で撮影しているんですよね。最近はどのカメラを使っていますか?
大橋:ライカです。写真撮影って設計力向上の訓練になると思うんです。
単なる記録写真ならiPhoneがめちゃくちゃ優れていて、AI搭載だから光も陰も均一に撮ってくれます。
じゃあなぜちゃんとしたカメラで撮るのかと言えば、光と陰の階調を意識したいから。
意識せず、なんとなく光と陰の濃淡を撮影することってできないんです。
これは設計における光と陰の表現とも重なる部分です。
かなり背伸びをしましたけど、陰の階調を表現したいからライカを選びました。
三浦:意図した設計で意図した陰のグラデーションを実現できているか?を確認する意味でもカメラで撮る写真が大事だと。その発想はなかったです。
写真撮影という訓練

風景を切り取る窓と居場所を重ねる

三浦:「陰影の階調」を味わう場として、「窓辺」と「居場所」を重ねるとおっしゃっていますね。
大橋:窓で風景を切り取るとそこが居場所になり、窓辺と居場所を重ねると陰影の階調ができる。
それを毎回やり続けるとそこにリヴアースならリヴアースの「物語」が生まれ、それがやがて「ブランド」になると考えています。
三浦:僕も窓辺は大好きですが、快適に過ごすには性能が大事だし、そのための設計力も求められます。
一方で、窓辺を居場所として捉える余地はまだありそうですね。
大橋さんの設計する住まいは、窓辺に段差をつけて腰掛けられるようにしてあるのも多いように感じますが、居場所と窓辺をどういう意図で設計されていますか?
「風色の家」
風色の家
大橋:住宅の中にたくさん居場所があったほうがいいと思っています。
過ごし方が固定された居場所というよりも、色々な魅力があって色々なことがやりたくなるような、少しずつ質の違う空間をつくりたいと考えています。
そうした居場所と、いい風景を切り取る窓は重なることが多いので、風景がよりいい立地の方が居場所の選択肢は増えます。
ただし条件が限られた立地でも、魅力的な居場所をいくつかつくることはできます。

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