窓上手のテクニック/Livearthリヴアース 大橋利紀の心地よく自然とふれあう住まいのつくり方

対談C 設計者の疑問に答える&まとめ
リヴアース代表・大橋利紀 氏×新建新聞社代表・三浦祐成 氏

南を確認し、風景のいいところを探す

三浦:3つ目の質問です。現場を見て必ずチェックする項目はありますか?
大橋:「堤の家」の事例をもとにお答えしたいと思います。
「堤の家」南東側の道路を挟んで堤防が迫り、隣家に囲まれた過密型立地。写真左の建物が南に飛び出している
堤の家
大橋:写真からわかる通り、堤防沿いの住宅密集地にあります。
敷地調査でまず何を見るかと言うと、「南」を確認します。
できれば太陽に素直に設計したいので、太陽の動きと南側の日射取得と日射遮蔽を考えます。
南向きだと庇を中心に日射をコントロールしやすいからです。
この「堤の家」の場合は、南側の半分に隣家が飛び出ており、しかも狭小地で南に平行に建物を配置すると建物の広さを確保できないため、敷地調査の時点で南に開くのは難しいと判断しました。

次に「風景のいいところ」を探します。
この家は、南から西にかけての空の抜けを風景のいいところと見定め、建物をL型に配置。
冬期・中間期ともに日影の影響を受けにくい北西寄りにLDKを設け、南に向かってデッキ、庭へと繋ぎました。
なお、お施主様が木の窓がお好きということだったので、メインの庭に対してLIXILのアルミ樹脂複合窓「サーモスX」を設置し、タモ材で框を隠しています。

また、同時に「隣家の窓の位置」を確認します。
周囲に古い建物がある場合は、建て替わった場合にどうなりそうか、最悪の事態を想定して窓を設定します。
※現在サーモスXは販売終了しております。後継商品はTWをお求めください。
「堤の家」配置図
「堤の家」配置図

ウッドデッキと庭のポイント

三浦:ウッドデッキのポイント、コツを教えてくださいという声も寄せられています。
大橋:窓と外の風景を繋ぐ要素としてウッドデッキがあるといいと考えています。
できれば、庇をかけてあげるとそこがもう1つの居場所になります。
私が設計するウッドデッキは大きく分けて2通りあり、1つは庭とともに使うことを想定した場所、もう1つは使わなくてもいいけど視覚的に庭とつながる場所。
ウッドデッキが仮になかった場合、突然庭が始まって違和感が出ないよう、緩やかに外と中を繋ぐこと、連続性が大事です。
「堤の家」のデッキと坪庭。狭小地のため苔と岩が主役の庭とした
堤の家
三浦:ウッドデッキに関連して大橋さんが考える魅力的な庭のポイントは?
大橋:「庭のない家は設計しない」と決めていますので、ファーストプランからこの場所にこの植栽を配置する、と考えて設計しています。
我々の大学時代は、植栽は建物から離す、均等に植えるとモダンな印象になると教わったのですが一切守っておらず、リヴアースでは「不均等」かつ「建物になるべく近付けて配置」します。
人はモノがあるとそこに奥行きを感じるため、手前、中間、奥に植物を植えると空間が広がったと錯覚を起こします。
不等辺三角形になるように植えるとどこから見ても奥行きを感じることができますし、手前にボリュームのある木を植え、奥に小さめの木を植えることで実際よりも広さを演出することができます。
より自然に見えるよう、当社ではシンボルツリーのような1本植え、株立ちはせず、寄せ植えをするよう心がけています。

窓とテレビの配置問題

三浦:次の質問は、テレビの設置場所について。
一番いい風景を窓で切り取って見せたいものを見せつつ、一方ではまだ多くの家庭で視聴されているテレビあるいはディスプレイをどこに置くのか、なかなか悩ましい問題です。
大橋:そこもちゃんと対応しています。まずお施主様には「テレビはソファの正面で見たいですか?」と聞きます。感覚的には7割の方が「正面で見たい」と答えます。
「前庭奥庭の家」
前庭奥庭の家
大橋:写真の「前庭奥庭の家」の場合、短時間だがソファの正面でテレビが見たいとの希望がありました。
このため、ソファの対面の壁(写真のこちら側)の中央にテレビ、ソファ横の窓の対面に掃き出し窓を設け、ソファに座ってテレビと景色の両方を眺めることができる配置にしました。
別の家では、テレビは正面、目線を少し動かした先にいい風景が見える窓があるパターンもあります。
ソファとキッチンはいい風景が見える場所に計画するのもリヴアースの決まりです。

設計の力で日常を特別に

三浦:時間が来たのでそろそろ締めましょうか。
今日、大橋さんのお話を伺ってすごくいいなと思ったのは、大橋さんの設計ポリシーでもある「日常が特別になる住まい」。
家が非日常の空間になると、例えば、わざわざ温泉旅館に出かけて行かなくても家で陰影や四季を味わうことができ、それが暮らしの豊かさとか情緒的な心地よさに直結していく。
設計の力と窓で日常を特別することが可能なんだと改めて知った気がします。
大橋:非日常と言うと「リゾート」を思い浮かべる方もいるかもしれませんが、私は、日本の住宅においては「風土に合う非日常」が普段の暮らしに馴染むんじゃないかと思っています。
その非日常の空間をつくるうえで、窓は半分以上を占めるくらい大きな存在です。
光・風がどう流れ、風景・植栽がどう見えるか…四六時中、風景の美しさや光の心地よさを感じ続けるのは難しいでしょうが、ふとした瞬間に見える緑や季節の変化を味わえる場所をできるだけ多く散りばめて設計したいと思いますし、そんな場所が多いほどいい家になると考えています。
そして、住まい手にも窓が切り取る瞬間の美しさ、窓が運んでくる風や光、陰のグラデーションを感じる心を養ってほしいと願っています。
三浦:まったく同感ですね。今日はありがとうございました。

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